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医療法人の運営および実務について

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自分で病院を開設するなら、安定した収益が見込め、永続性のある経営をしたいと誰もが思うことでしょう。
なかでも、クリニックや病院を経営する医師が、経営の効率化、事業の拡大、節税、収益の増加、将来性を考えた際に選択する方法があります。それは、医療法人の設立です。医療法人の設立は、節税が見込め社会的信用も増すと考えられており、将来的に法人格への移行を目指している個人開業医も少なくありません。

医療法人とはどのような組織化か

医療法人について説明する前に、「法人」について理解しておく必要があります。
法人とは、「人と同様に法的権利や義務が認められている団体」を意味します。法人と名前がつくと、人ではありませんが人格があるように考えますので、企業を所有・経営するのは法人が代表として行うことになります。
医療法人に当てはめると「医療法で法的権利や義務が認められている法人が、病院を所有し経営する」ことになるのです。

医療法人の定義

医療法人の定義は、医療法で下記のように定められています。

「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団をいい、都道府県知事の認可により医療法に基づいて設立される特別法上の法人のこと」(医療法第39条1項)

社団・財団は法人の区分の一つで、社団は人の集まりを基盤としたもの、財団とは提供された財産(無償寄附)が基盤の法人で、医療分野の場合、条件は異なりますがどちらの種類でも設立が可能です。
さらに、医療法人の種類は、社団医療法人、財団医療法人、特定医療法人の3種類にわけられます。社団医療法人が全体の99%以上を占めています。
(参照元:厚生労働省 種類別医療法人数の年次推移)
その多くは「医療法人○○会」「医療法人××病院」と、社団や財団の表記を省略しています。医療法の定義上は、社団か財団でなければ、医療法人は開設できませんが、表記に法的義務はないため、省略表記をするところが増えているようです。

医療法人制度が創設された趣旨

医療法人制度は、今から約70年前、昭和25年の医療法改正により創設されました。
それまでは病院・診療所の開設者は、公益法人、社会福祉法人、株式会社、個人でしたが、戦後の復興期であった当時、経済の復興・社会制度改革において、国民に安心・安全かつ高度な医療を、永続的に提供出来る環境整備が求められていました。そのため、個人による医業事業の経営困難を緩和する目的もあり、医療法人制度が創設されたのです。制度創設当時は医療法人の設立のため、常勤医師が3人以上必要でしたが、1985年の法改正で医師1名でも設立が可能となりました。2021年3月31日現在、医療法人は全国で56,303法人あり参照元:厚生労働省 医療法人・医業経営8.統計データ医療法人数の推移より)、まだ漸増傾向にあります。
また全国で10万強ある一般診療所の約40%(参照元:厚生労働省の令和元年10月の医療施設調査より)が医療法人となっていて、コロナ禍においても、昨対比1.7%増となっています。

医療法人制度の創設の趣旨は大きく分けて2つあります。
1つ目は、経営主体が法人になることで資金の集積が容易になります。医療機関の主たる収入源は診療報酬ですが、医療行為を行ってから、実際に医療機関へ支払われるまでにはタイムラグが生じます。
短期の経営を維持・安定させるためには、融資を受け、債権を発行し、財政面で経営を安定させることができるようになります。また高額医療機器の導入においても、リースや融資が容易になるなど、経営の安定だけではなく、医療の高度化を図ることができます。

2つ目は、医療機関等の経営に永続性を付与する事が可能となります。
個人病院と異なり、医療法人は都道府県が許可し設立されます。都道府県には安定かつ継続した地域医療を提供する義務があり、地域の医療計画において医療法人は欠かすことのできない存在になります。そのため、医療法人は永続的な経営が求められ、税制面の優遇や事業継承のしやすさ、事業拡大が容易になるなど様々な配慮がなされています。また、「医療法人は自主的に運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上及びその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすように努めなければならない」とされており、医療法人となることで、地域に安定した医療を供給し、病院を遺していくことが可能になるのです。

医療法人化するメリット・デメリット

医院を医療法人化することで、得られるメリットとデメリットをご紹介いたします。

医療法人には3つの大きなメリットがあります。
➀事業継承のしやすさ
➁税制面での優遇
➂事業規模拡大が可能
まずはこの3つのメリットについて、わかりやすく解説していきます。

➀事業継承のしやすさ
少子高齢化により医師のなり手も減っていく中、医師不足は全国的に大きな問題となっています。日本医師会総合政策研究機構が2019年2月に発表した「医業承継の現状と課題」(参照元PDFデータ)によると無償診療所は89.3%、有床診療所は79.5%が後継者不在となっています。
1985年の法改正時点で医療法人を設立した医師たちも高齢化しているため、医療法人も同じような状況にあると考えられますが、後継者不在により医療法人の事業継承がうまくいかず、地域医療が途絶えるという事があってはなりません。その為本来であれば、煩雑な事務手続きを簡略化できるように配慮されています。例えば、医療法人の役員を変更し、法人登記申請・代表者変更の届出をするだけで、スムーズな事業継承が行えます。特例ではありますが、後継者となる医師がいない場合、一時的に医師以外が理事長に就任し、経営を継続する事も可能となっています。

➁税制面での優遇
個人開設で発生する所得税は、課税所得金額に応じて最低税率は5%、所得金額が4,000万円以上になると45%まで課税(参照元:国税庁HP 所得税の税率)されます。一方で医療法人の場合は資本金や所得、区分にもよりますが法人税率は15~23.2%(参照元:国税庁HP 法人税の税率)と優遇されています。さらには、法人内で利益を分散することができますし、生命保険を利用した退職金の準備が可能となるのも大きな魅力です。なお、新医療法人を相続する際には、子どもが継いでも親族間で相続税がかからないというメリットがあります。

➂事業規模拡大が可能
医療法人には本来業務と呼ばれる、病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院を開設・運営するだけでなく、他の業務への事業展開(参照元:厚生労働省 医療法人・医業経営のホームページ 1.医療法人制度についてより)も認められています。たとえば、看護師等の養成所の経営、有料老人ホームの開設などがあります。現在、医療サービスと介護・福祉の連携が求められており、付帯業務の経営に力を入れ、事業拡大を図る傾向が強くなっています。他にも病院の業務に関連した業務として、病院内の売店の経営・敷地内駐車場の経営も認められています。

医療法人のデメリットとして、5つのことが考えられます。
① 運営管理の複雑化、士業への依頼が増加する
② 個人の可処分所得が減少する
③ 社会保険の加入義務が発生する
④ 医療法人の業務範囲が定められている
⑤ 解散手続きに手間がかかる
デメリットについても、一つひとつ解説していきます。

① 運営管理の複雑化、士業への依頼が増加する
医療法人の運営には、個人で開業しているよりも多くの手続きが必要となり、煩雑化・複雑化の傾向があります。具体的には、会計終了3ヶ月以内の事業報告、財産目録作成、BS・PL、監査報告、地方厚生局の手続きや指定医療機関の認定を受けるための手続きです。また、事業規模拡大においても、管轄の都道府県庁に事前の許可を受ける必要があります。必然的に、行政書士、税理士や会計士、弁護士などの士業へ委託する業務が増加し、年間の委託費の負担も増加します。

② 個人の可処分所得が減少する
医業所得が分散されるため、設立前より個人で自由に使えるお金が減る傾向にあります。さらに、法人の内部留保は、理事長が自由に使用できるお金ではありません。しかし、法人の場合は理事長以外に、家族が医療法人の運営に関わっていれば役員報酬を支給する事もできますので、結果として世帯での収入は増加する可能性があります。

③ 社会保険の加入義務が発生する
個人で病院を経営する場合は、常勤職員5名以下の社会保険は任意加入となっています。しかし法人の場合は、雇用人数に限らず常勤職員は強制加入となっています。社会保険料は法人と従業員がそれぞれ負担となり、1/2は事業主負担分となりますので負担が大きくなります。

④ 医療法人の業務範囲が定められている
経営を拡大できると言っても、業務内容に制限はあります。不動産経営や、オリジナルグッズの販売、病院の敷地内・経営に直結しない不動産経営もできません。MS法人を活用する方法もありますが、業務範囲には注意が必要です。
MS法人については、こちらのコラムをご参照ください。

クリニック経営におけるMS法人の役割と活用方法について

⑤ 解散手続きの手間
地域医療の永続性という観点から、簡単に法人の解散をすることはできません。医療法人の設立と同様に、解散も都道府県の認可がなければできませんし、認可が下りるまで半年以上の時間がかかります。個人的な理由での解散は困難ですし、新法人の場合、解散時に財産がある場合は国や地方公共団体に帰属しますので注意が必要です。

医療法人の運営

医療法人は、医師個人の自由に運営することはできません。定款とよばれる医療法人の運営ルールを決め、社員総会での決議をもとに運営します。医療法人では、最高意思決定機関として社員総会、業務執行機関として理事会、監査機関として監事を置くことが定款に定められております。
社員総会および理事会は以下の役割があります。
社員総会・・・定時社員総会と臨時社員総会あり、運営上重要な事項の決議
事業報告の承認、定款変更、理事・監事の選任
理事会・・・・業務執行の決定、理事の職務執行の監督、理事長の選出及び解職
定時総会は通常年に2回行われ、必要に応じて臨時社員総会を開催する必要があります。医療法人は総会の決定に基づいて、円滑な運営が実現しているのです。

医療法人の実務
そのほかにも個人経営のクリニックの比較しると、医療法人の運営に関する実務は数多く存在します。
1.毎年の事業報告・決算報告(年1回)
2.資産登記(年1回)
3.役員の改選登記(2年に1回)
4.議事録(社員総会年2回・理事会年2回)作成
5.監事の監査

これらは、法務局や地方自治体、厚生労働省へ報告義務があり届け出を怠ることで法的な罰則もありますので、厚生労働省の定める医療法人運営管理指導要綱(参照元:厚生労働省 医療法人・医業経営のホームページ 1.医療法人制度の概要 医療法人運営管理指導要網より)に則った経営が必要です。医療法では営利目的を目的とした、病院・診療所の開設を許可していません。それは医療法人であっても同様です。医療法人の余剰金の配当は医療法(54条)で認められておらず、その経営には非営利性・公益性が求められています。
事業拡大・収益という観点から、医療法人を設立したいと考える医師も多いでしょう。実際の経営においては実務と法的な制約の増加、社会的信用も増すと同時に永続性のある経営が求められます。さらには、経営だけでなく地域・社会への貢献という視点から、医療法人の設立が求められているのも事実です。医療法人を経営するにあたっては、経営・節税だけでなく、広い視野を持った公益性の高い医業の展開が必要だという事を、頭の隅にとどめておく必要があるようです。

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