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表明保証保険とは?

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表明保証保険は、海外とくに欧米などの諸外国を中心に発展した保険制度です。一般的に、株式譲渡や事業譲渡等のM&A取引における売買契約書では「表明保証条項」が規定されています。表明保証保険について、適切に理解し加入することで円滑な取引をすすめられるでしょう。
今回は表明保証についてわかりやすく解説しています。さらに、表明保証保険の概要から必要性、実例まで幅広く紹介します。

 

表明保証保険とは?

表明保証保険について知る前に、まずは表明保証とは何か理解する必要があります。

1.表明保証とは

表明保証とは「M&Aにおいて、売り手側が買い手側に対して対象企業の財務や法務等に関する開示事項に虚偽がないことを表明、保証し、売り手側が当該保証に違反した場合には、買い手側が被る損害に対して金銭的な補償を行う義務を負うことを保証する」ものです。

わかりやすくいうと、提示した内容に相違や虚偽がなく、潜在債務や偶発債務が存在しないことを、他方の当事者に保証するものです。契約、クロージング時、売主側は少しでも高額で売買したいと考えます。そのため、契約に不都合な事象や、売買価格を下げる要因になる事項を隠してしまうかもしれません。契約前に士業の専門家(弁護士・公認会計士など)にデューデリエンスを依頼して対象事業の過去の資料を精査していただいても、全ての問題点を洗い出すことは難しいです。このような状況で売買が成立した場合には、買主側は大きな損害を被る危険性があります。契約・クロージング前・後にかかわらず、買収交渉で開示されていなかった支払債務や保証項目違反など、当事者の表明保証違反が発覚した場合、他方の当事者が表明保証違反で被る損害を請求できるのが表明保証というわけです。一例ですが具体的な表明保証の項目は以下です。

<保証項目の例>

・株式、事業等は売主自身の所有であり、売主が契約締結・履行権限があること
・訴訟や紛争を抱えていないこと
・開示情報がいずれも真実かつ正確であること
・財務諸表および会計帳簿等に虚偽記載がないこと
・債務諸表が会計基準に従って作成されていること
・譲渡契約自体が法令違反ではないこと
・労使間の係争、未払い労働債務は存在していないこと
・不良債権・風発債務は存在していないこと

<表明保証違反が発覚した場合>

残念ですが、表明保証違反が発覚することは決して少なくありません。表明保証違反が多い項目は、大きくわけて以下の3つがあります。

➀財務諸表関連
・会計原則からの逸脱
・売掛金や買掛金の記載金額誤り
・棚卸資産の評価誤り
・現預金や利益水準の水増し

➁法令順守(コンプラアンス)関連
・固定残業代の合意瑕疵
・管理従業員の管理監督者該当性の不備

➂契約関連
・重要契約の有効な存続における瑕疵

表明保証違反が発覚した場合、違反内容や規模、損害によっては契約・クロージングには至らず、解除が可能です。さらに、表明保証違反の内容がそれほど重大ではなく、クロージングできる程度であれば、売買価格から補償すべき金額を値引きする方法があります。それ以外にも、クロージング後に違反側が相手側に補償する方法もあります。
このため契約書には表明保証違反の当事者に対して、保証請求いわゆる損害賠償請求条項を規定することが一般的です。違反を被った側が不利益を被らないよう配慮された制度となっているのです。

表明保証保険の概要

表明保証保険は前述した表明保証違反により、当事者が被った損害を保険会社が補償する保険商品です。買主が被保険者であれば、売主の表明保証違反について、売主からの保証が得られない場合には、買主が被る被害の補償を表明保証保険(保険会社)で受けられます。表明保証保険が成立していることで、当事者双方が表明保証や補償責任の範囲について合意できず、交渉が決裂してしまうことを回避するための一手段で、M&Aを円滑にすすめるために世界中で重要視されています。

表明保証保険に加入するには秘密保持契約書を締結後、ヒアリングシートや担当者との個別面談で個々の顧客のニーズを把握します。その後、見積もり・契約となるのが一般的です。
双方にリスクとってリスクがあるM&Aでは、売手側は損害賠償や補償請求のリスクを低減したいですし、買手側は表明保証違反が発覚した場合に、買手側から損害賠償や補償など適切な対応を受けたいと考えています。

表明保証保険は売手側・買手側それぞれが利用できます。売手向けの表明保証保険は、買手からの損害賠償や補償請求がなされた場合に、補償を受けられます。買手向けには、表明保証違反が発覚した際に、売手に損害賠償や補償請求をしなくとも、保険会社による保証を受けられます。表明保証保険を活用することで、双方のリスクを低減し、クロージング後も良好な関係を維持できるのです。

〇加入手続きについて

表明保証保険の加入手続きでは、以下の4つのポイントがあります。順に解説します。

1.概算見積

多くの保険会社では、事業規模や契約内容など顧客に合わせた、オーダーメイドの保険設計をおこなっています。そのため、保険会社によって保障内容や補償範囲が異なります。事業存続にかかわる大きな契約ですから、複数の保険会社から見積を取り寄せても問題ありません。概算見積の際には、IM(インフォメモ)、デューデリジェンス・レポート、企業概要、最新の売買契約書など、詳細な資料の提出が求められます。求められる資料は、保険会社ごとに異なります。
資料提出後、5~10営業日程度で概算見積が提案されるのが一般的です。表明保証保険に加入できない場合は、この時点で保険会社から通告されます。

2.引受審査

見積もりを確認し契約する保険会社を決定したら「引受審査」を受ける必要があります。引受審査は契約者が保険会社の一定条件を満たしているか審査し、その保険を引受けるかを判断するものです。一般的には、DD(買収監査)の結果報告書、譲渡契約書(ドラフト)を提出、面談や電話などでさらに詳細なヒアリングがおこなわれます。円滑な引受審査にはDDの適切な実施が必須です。保険会社はDDの範囲・精度・深度・正確性等を客観的に評価し、引受の可否を判断します。DDが不十分と判断されてしまうと、保険を引受審査が受理されない場合があります。

3.保険契約

リスクが顕在化し得る頻度や、顕在化した場合の損害額等を評価します。結果をもとに、補償範囲や保険金額が設定表明保証保険で補償されるケース、支払い対象となる損害の範囲・金額などが決定されるのです。保険証券の内容に合意できたら、契約が締結されます。

4.加入金額および保証額

加入金額(最低保険料)は契約する保険会社によって異なりますが、補償限度額の1~3%と言われています。買主の補償希望額と売主の補償可能額の差を埋めリスクを低減するのが、表明保証保険の役割です。

M&Aにおける表明保証の必要性

M&Aにおいて表明保証とは、売り手が提示した内容について、真実で正確であることを意味しています。DDは士業が数週間~数か月かけておこないますが、故意に隠ぺいしたり、虚偽の回答をしたりする場合には売買におけるリスクをゼロにはできません。結果、損害を被ったり利益を得られなかったりするケースが後を絶ちませんでした。そのため、表明保証という形で事実に相違ないこと、相違がある場合の損害賠償や補償を明記することとなっています。
表明保証の詳細は、最終の譲渡契約の際に盛り込まれるのが一般的です。そのためには最終譲渡契約までに、表明保証条項を決定する必要があります。双方の利害が一致し、リスクが低減できる表明保証の精査と交渉が円滑なM&Aには必要です。

 

クリニックM&Aにおける表明保証違反における実例

表明保証保険の先進国であるアメリカで、M&Aにおける表明保証保険普及率は約50%といわれています。日本では普及の途上にあり、クリニックM&Aでは馴染みのない人も多いかもしれません。しかし、円滑なクリニックM&Aおよび、リスク低減の観点から表明保証は欠かせません。

クリニックM&Aで想定される表明保証違反の一例は以下となります。

・故意または過失により、想定外の理事がいる
・退職金規定が制定されていたが、退職金が積み立てられていなかった
・売主以外に権利保有者が存在した
・顕在化していない医療訴訟を抱えている

表明保証違反に関する判例には、以下の一例があります。

対象会社が運営していた店舗1つの閉鎖による賃貸借契約の中途解約に基づく違約金1945万5000円の存在を売主側が説明しなかったことを表明保証違反と認定。この違約金額と弁護士費用について、売主側の損害賠償義務を認めた。

(東京地裁平成19年7月26日判決(判例タイムズ1268号192頁)2)

加入は取引額によって検討が必要

表明保証保険は、譲渡契約締結からクロージングまでのフェーズで表明保証に違反していた場合、故意または過失がなくとも買手は損害賠償や補償を請求できます。しかし、損賠賠償や補償を請求したとしても、すべてが保証されるとは限りません。売手が十分な情報開示をおこない、買手も十分な調査のうえで締結された契約においては、補償の対象とならなかったという判例もあります。
また、表明保証保険は保険証券ですから、表明保証加入のための資金が必要です。顧客に合わせたオーダーメイド保険商品とはいえ、免責事項や一定額の免責金額や補償上限額が定められており、希望する金額のすべてが保証されるわけではありません。保証される期間も生涯に渡るわけではなく、数年単位の契約となっているのが一般的です。
さらに、表明保証保険加入のためのDDや各種書類の作成は、複雑かつ煩雑なため専門的な士業への依頼が欠かせません。このような、事務手続き上の費用も発生する可能性があります。実際の表明保証保険の加入や契約においては、契約書に定められた各種条項や保証上限額、表明保証加入金額を比較したうえで加入の判断が必要です。

 

参考資料

1)経済産業省 取引の安全・安心の確保 令和3年3月15日


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