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出資持分譲渡と退職慰労金の配分による手取りの違いについて ~医療業界M&Aの財務知識~

  • 医療継承コラム

こんにちは。メディカルプラスです。今回の記事では、特に出資持分を有する医療法人のM&Aに焦点を当て、出資持分譲渡と退職慰労金の配分が手取り金額に与える影響について、ご説明いたします。具体的な事例をもとに、「出資持分」と「退職慰労金」の意味や、これらがどのように課税されるかについて解説いたしますので、ぜひご一読いただきご参考にしていただければ幸いです。

出資持分について

メディカルプラスのサイト内で頻繁に登場する「出資持分」という言葉。あらためてご説明すると、「平成19年3月31日以前に設立申請された出資持分のある医療法人(経過措置型医療法人・いわゆる旧法人)に対する財産権」のことをいいます。この出資持分(一部または全部)は第三者に対し、譲渡することができます。そして譲渡時の出資持分の評価額は、「医療法人設立時の出資金額」に、「経過年度の利益剰余金」を合算したものになります。例えば、1,000万円を出資した法人が、順調に経営されて法人純資産が1億5,000万円まで増加した場合、出資持分の評価額は1億5,000万円となります。

医療法人は剰余金の配当が禁止されていることから、長期間経営すれば純資産が大きくなりやすい傾向にあります。出資持分保有者は当該法人の退社時に出資持分の保有割合に応じた財産の請求を行う権利がありますので、請求者が保有している出資持分の割合によっては払い戻し額が大きくなり、医療法人の経営を圧迫する可能性が考えられます。

また出資持分を相続する場合、財産権があることから相続税の課税対象となります。仮に相続が発生した場合は純資産が大きいほど莫大な相続税が発生するのですが、出資持分は換金性の高い一般株式とは異なり換金性が低いため、相続者が納税資金を捻出できない可能性もあるのです。

一方、平成19年4月以降に設立された基金拠出型医療法人(いわゆる新法人)には、財産権は担保されておらず、設立時に拠出した金額の払い戻しを除き、医療法人の利益剰余金は国や地方自治体等に帰属します。そのため払い戻し請求や相続が発生することがありませんので、将来にわたり安定した経営を行なうことができるのが基金拠出型医療法人の特徴です。
例えば、設立時に1,000万円を拠出した医療法人があったとします。順調に経営された結果、法人純資産が1億5,000万円まで増えたとします。この法人を解散した場合、設立時に拠出した1,000万円は拠出者のへ返還、残りの1億4,000万円は国に帰属することになります。ただし、医療法人の解散時に財産が残った場合の話ですから、役員退職金の支給などの方法で財産が残らないように調整することは可能です。

「出資持分譲渡」ってなに?譲渡価格の計算はどうやるの?

退職慰労金とは

つぎに「退職慰労金」です。これは「理事が退職する際に医療法人が支払う退職金」の一種になります。医療法人における退職慰労金の額は、下記3点で算出されることが一般的です。
———————————
1. 最終の月額役員報酬(退職直前に受けとった月額報酬で)
2. 役員として医療法人に在籍した年数
3. 功績倍率(理事長3倍、常務理事2倍、一般理事1倍が一般的)
———————————
功績倍率について、通常の企業では理事長は、理事長と同じ立ち位置となる代表取締役の功績倍率が2倍とされるケースが多いですが、医療法人の理事長は医師という立場も兼任しているため、その分代表取締役よりも功績倍率が高くなっています。一例をあげましょう。

最終の月額報酬が200万円、役員として医療法人に在籍していた期間が25年、功績倍率が3倍の理事長における退職金の上限額
⇒ 200万円×25年×3(功績倍率)=1億5,000万円

出資持分譲渡における課税について

つづいて、売手が出資持分を譲渡する場合の課税についてご紹介いたします。
所得税法上、出資持分譲渡により譲渡益が生じた場合「譲渡所得」に区分されます。税率は20.315%(所得税、復興特別所得税の15.315%、住民税5%)です。設立時に出資した出資金は「取得費」(原価)として譲渡所得の算定に際し、譲渡価格から控除することができます。つまり出資持分譲渡対価が出資額以下の金額であれば税金はかかりません。
その他「譲渡費用」として仲介業者への手数料も差し引くことができます。


【計算方法】
・譲渡所得=譲渡価格 -(取得費+譲渡費用(手数料))
・譲渡所得税=譲渡所得 × 20.315%

【事例】
・理事長A先生が1,000万円を出資し、医療法人を設立。
・10年後に第三者継承を検討し仲介業者に依頼。医療法人の譲渡価格は5,000万円。仲介手数料は500万円。
・B先生に出資持分譲渡対価5,000万円、退職金支払い0円で出資持分譲渡することが決定。

譲渡所得:
3,500万円=5,000万円-出資金1,000万円-仲介料500万円
譲渡所得税:約711万=3,500万円×20.315%
A先生の手取り金額:
3,789万円=5,000万円-所得税711万円-仲介料500万円

退職慰労金における課税について

退職慰労金を受け取る場合は累進税率【表3】が適用されます。
ただし下記【表1】のように役員等の勤続年数が5年以下である場合を除き、下記計算式の通り、退職所得を2分の1とする計算が適用されます。また、退職所得には、勤続年数に応じた控除があるため、所得区分の中でもかなり優遇されている区分となっています。

表1
役員等勤続年数 課税退職所得金額
5年以下 退職金の額-退職所得控除額
5年超 (退職金-退職所得控除額)÷2

《計算方法》
・退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額(表2参照))÷2(表1参照)
・退職所得の税金=退職所得の金額×累進税率(表3参照)-控除額(表3参照)

表2
勤続年数 控除額
20年以下 40万円×勤続年数※80万円未満の場合は80万円
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 

表3 所得税の税額表
課税退職所得金額 税率 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

《事例》
・理事長A先生が1,000万円を出資し、医療法人を設立。
・10年後に第三者継承を検討し仲介業者に依頼。医療法人の譲渡価格は5,000万円。   仲介手数料は500万円。
・B先生に出資持分譲渡対価1,000万円、退職金支払い4,000万円で出資持分譲渡することが決定。


① 勤続年数が11年4ヶ月の場合の退職所得控除額
勤続年数は月数を切り上げて計算するため12年となります。

退職所得控除額 480万円=40万円×(勤続年数)=40万円×12年(表2参照)
退職所得の金額 1,760万円=(4,000万円(退職金支払い分)-480万円(控除額))÷2(表1参照)
退職所得の税金 約427万円=1,760万円×33%(表3参照)-153万円(表3参照)
所得税・住民税・復興特別所得税の金額 約611万円=427万円+(1,760万円×10%)住民税+(427万円×2.1%)復興特別所得税

●A先生の手取り金額:3,889万円=5,000万円-611万円-手数料500万円


② 勤務年数が30年の場合の退職所得控除額

退職所得控除額 1,500万円=800万円+70万円×(勤続年数-20年)=800万円+70万円×10年(表2参照)
退職所得の金額 1,250万円=(4,000万円(退職金支払い)-1,500万円(控除額))÷2(表1参照)
退職所得の税金 約259万円=1,250万円×33%(表3参照)-153万円(表3参照)
所得税・住民税・復興特別所得税の金額 約389万円=259万円+(1,250万円×10%)住民税+(259万円×2.1%)復興特別所得税

●A先生の手取り金額:4,111万円=5,000万円-389万円-手数料500万円

まとめ

「出資持分譲渡」と「退職慰労金」におけるそれぞれの課税額を計算し、手取り額の違いについてご紹介させていただきました。特に売り手として注目すべきなのは、「出資持分譲渡の対価として受け取る部分」と「退職慰労金として受け取る部分」の割合によって手取り額が異なります。今回の事例では、「退職慰労金として受け取る部分」の割合が大きいほど手取り額が増えましたが、譲渡金額や勤続年数によっては「出資持分譲渡の対価として受け取る部分」の割合が大きい方が手取り額が多くなる場合もあります。したがって、医療法人の譲渡をご検討されている方は、医療法人のM&Aに精通したM&Aアドバイザーや税理士に相談しながら、取引を進めることをおすすめします。

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