医院継承時のスタッフ雇用引継ぎについて

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こんにちは。クリニック継承(承継)、クリニックM&A、医療法人M&Aを支援しているメディカルプラスです。本日はクリニック継承(承継)時の既存スタッフの雇用引継ぎについてお伝えします。
クリニック継承時、既存スタッフの雇用を引き継ぐかどうかは、譲渡される先生、譲受される先生双方にとって非常に重要な課題です。スタッフの引き継ぎには、クリニック運営の安定を図るための多くのメリットがある一方、リスクや課題も伴います。本コラムでは、個人クリニックと医療法人のそれぞれのケースについて、スタッフの雇用引継ぎに関するポイントと注意点を詳しく解説し、さらに具体的な対応策として社会保険労務士がどのような役割を果たすかもご紹介します。
個人クリニックの場合
個人開設のクリニックでは、事業譲渡により継承が行われるため、事業主が変わります。そのため、労働基準法上、スタッフの雇用を引き継ぐ義務はありません。しかし、クリニック継承後も引き続き勤務を希望するスタッフに対しては、新院長が雇用条件を提示し、双方が合意のうえで新たな雇用契約を結ぶ必要があります。
特に注意すべき点は、事業譲渡の際、スタッフの再雇用における意向確認が必須であることです。また、事業譲渡に伴い、有給休暇や退職金などの権利は引き継がれないため、これらを事前にしっかりと説明し、トラブルを未然に防ぐことが大切です。譲受側の先生は、継承手続きがクロージングに達するまでに再雇用条件を明確にしておき、クロージング日までには雇用契約を結んでおくことが必要です。
再雇用時の雇用条件が従前の条件と異なる場合、特に給与や勤務時間の変更を行う際には、スタッフとの十分なコミュニケーションを図ることが重要です。この際、社会保険労務士に同席してもらうことで、適正な条件提示や法的手続きを円滑に進めることができるでしょう。
医療法人の場合
医療法人を継承する際は、法人が雇用主となるため、スタッフの雇用契約はそのまま引き継がれます。理事長が交代するのみで、スタッフの雇用関係や条件に変更は基本的に発生しません。ただし、継承後の経営方針や診療内容の変更に伴って、労働環境や業務内容の調整は可能です。
医療法人の継承では、前述したとおり包括継承なので、基本的にはスタッフの雇用条件変更は難しく、特に給与水準の見直しなどが必要な場合は慎重に進める必要があります。雇用条件を変更する際には、スタッフの同意を得ることが不可欠であり、法的には「不利益変更」と見なされる可能性もあります。このようなケースでは、社会保険労務士に相談し、就業規則の確認や雇用契約の内容を精査することが重要です。
特定のスタッフに退職してもらったケース
クリニック継承において、特定のスタッフの雇用を引き継ぐことで、後々問題が発生するケースもあります。過去の事例では、前院長から「問題のあるスタッフを引き継がない方が良い」というアドバイスを受け、そのスタッフには退職金を支払い、退職してもらったケースがありました。
また、継承後に家庭の事情でスタッフが退職するケースも少なくありません。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、継承前にスタッフの意向を確認し、必要に応じて労務条件の見直しや退職に関する手続きを事前に行うことが重要です。
スタッフの雇用引継ぎは医院継承の大きなメリット
スタッフを引き継ぐことには、クリニック運営の円滑化や患者との信頼関係の維持といった多くのメリットがあります。既存のスタッフが診療業務や患者対応に熟練しているため、継承後もスムーズな運営が期待できます。特に、患者さまがスタッフとの信頼関係を重視している場合、スタッフの引継ぎが患者離れを防ぐ要因となります。
具体的な対応策と社会保険労務士の役割
個人経営の医院や医療法人に関わらず、長年にわたり口約束や慣習に基づいた雇用関係が続いているケースは少なくありません。このような非公式な雇用関係では、継承時に給与水準や労働条件の不整合が生じるリスクが高まります。
特に、給与水準が市場の平均を上回っている場合、個人クリニックであれば再雇用時に条件を調整することができますが、医療法人では不利益変更とされ、調整が困難になることがあります。このような状況においては、社会保険労務士が果たす役割が非常に重要です。
社会保険労務士の具体的な対応
社会保険労務士は、まず雇用契約の適正化を支援します。具体的には、正式な雇用契約書の作成、あるいは既存の雇用契約書の内容を確認し、法的に適正な形に修正します。さらに、給与体系や勤務条件が市場水準と乖離している場合には、市場データに基づいた適切な給与体系の見直しを提案します。
また、スタッフの労働条件の変更が必要な場合、労働基準法に基づく適切な手続きを進めるための助言を行います。特に、法人でスタッフが10人以上いる場合には、就業規則や退職金規定の見直しを行い、労働基準監督署への届け出が必要となるため、これらの法的手続きもサポートします。
さらに、クリニック運営中に発生するスタッフからのクレームや要求にも対応し、適切な解決策を提案します。これにより、経営者は安心してクリニック運営に集中することができるでしょう。
クリニック継承時のスタッフ引継ぎは、メリットも多い一方で、法的リスクや労務問題も存在します。適切な対応を行うことで、クリニックの円滑な運営を維持し、患者さまやスタッフ双方にとって最善の環境を提供することが可能です。
まとめ
クリニック継承時のスタッフ雇用引継ぎは、運営の安定や患者との信頼関係を維持するために非常に重要です。特に、個人クリニックでは再雇用に向けた契約や条件の調整が必要であり、医療法人では雇用条件の変更が難しいため慎重な対応が求められます。いずれの場合も、社会保険労務士の専門的なサポートを受けることで、法的リスクを回避し、適切な雇用条件の整備が可能となります。
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