開業医の年金と老後資金 ~勇退を見据えて知っておきたい備え方~

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こんにちは。医院継承・クリニックM&A仲介支援のメディカルプラスです。本記事では、開業医の年金と老後資金についてお伝えいたします。弊社でご勇退にともなう医院譲渡を検討中の先生方とお話しする中で、「忙しく診療しているうちにこの年齢まできてしまった。老後のことを考えているようで、真剣に考えていなかったかもしれない」といったお声がよくきかれます。また「開業医はみんな、老後資金をどうしているのか?」という話題になることもございます。
勤務医から開業医へと立場が変わると、年金制度や将来の備え方にも違いが生まれます。今回は、そうしたお声をもとに、開業医の年金制度と老後資金をテーマに整理してみました。ご自身の将来設計を考える際の一助として、お役立ていただければと思います。
早めに考えておきたい開業医の老後問題
開業医は勤務医と比べて診療方針の自由度が高く、目指す医療理念の実現へ向けて医療環境を作ることができ、経営の工夫次第で収益を伸ばせるという大きな魅力があります。一方で社会保険や福利厚生の仕組みが勤務医と異なるため、将来の備えについてもご自身で設計していく必要がある立場でもあります。
日々の診療と経営の両立には大きなエネルギーを使うため、さきざきのことはつい後回しになる、という声は多くの先生から伺います。また「今の生活水準で老後を迎えるにはどれくらい必要なのか分からない」「勤務医時代と前提が違うのは分かるが、何から考えればいいのか」といった迷いを抱える先生も少なくありません。こうした見えない不安を整理するには、まずは社会制度の違いを大枠でつかむところから始めるのが、最も効率的です。
開業すると年金は国民年金が中心で、退職金制度も原則ありません。そのため、老後資金の確保は先生ご自身の判断と準備によって大きく変わります。そこでまずは勤務医と開業医ではどのような違いが生まれるのか、老後資金の前提となる年金制度の違いについて整理していきたいと思います。
勤務医と開業医の年金制度の違い
勤務医として働く場合と、開業医として経営を担う場合では、同じ医師という職業であっても「将来を支える制度の前提」が大きく変わります。勤務医の先生は 国民年金(基礎年金)+厚生年金 の二本立てで、勤務先が厚生年金保険料の半分を負担してくれるため、将来の受給額も比較的イメージしやすい仕組みになっています。毎月の天引き額は大きく感じても、そのぶん老後に必要な土台が自然と積み上がる点が特徴です。
一方、開業医は一般的な個人事業主と同じ扱いとなり、基本となるのは 国民年金のみ です。保険料は全額自己負担となり、受給額も国民年金の範囲に収まります。勤務医のころに自然に積み上がっていた厚生年金部分を、開業後は どの方法で補っていくか をご自身で考える必要があります。とはいえ、これは開業医が不利ということではありません。積立方法・働き方・医院の出口戦略まで含めて、将来像を自分でデザインできる、自由度の高い立場でもあります。まずは「勤務医時代とは制度の守られ方が違う」という前提を、あらためて押さえていただければと思います。
次章ではこうした前提を踏まえ、老後生活に必要な資金について、現状をおおまかに整理します。
老後生活に必要な資金とは
老後の生活費については複数の公的調査がありますが、まずは確定して公表されている最新の数字を見てみましょう。公益財団法人 生活保険文化センターによる「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」では、ゆとりある老後生活費の平均は月額37.9万円とされています。単純に12ヶ月分を掛け合わせると年間約454.8万円となり、一定の生活水準を維持するには、やはり相応の備えが必要であることが分かります。
開業医の先生の多くが加入している国民年金の受給額は、年間70〜80万円台 が目安とされます。生活スタイルによって必要額は変わりますが、年金のみで老後を支えるのは難しいというお声を伺うことも多くあります。また、2023年以降の速報値でも老後の生活費は上昇傾向にあり、近年の物価高や光熱費の値上がりを踏まえても、資金計画を考えるうえで生活コストの変化を意識することが重要です。
加えて、厚生労働省が公表している「令和4年簡易生命表(確定版)」では、日本人の平均寿命は男性81.41年、女性87.57年とされています。勇退するタイミングが5年違うだけでも、必要となる総額は大きく変わります。「どの時期に勇退するか」「その後どのような生活を送りたいか」を早めに考えておくと、現役のうちから無理のない形で準備が進めやすくなります。老後資金として不足すると見込まれる部分については、貯蓄・投資・保険など複数の手段を組み合わせ、計画的に備えていきましょう。
*参考:生活保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」
・調査報告書 PDF(確定版)
https://www.jili.or.jp/files/research/chousa/pdf/r4/2022honshi_all.pdf
・速報版 PDF(比較用)
https://www.jili.or.jp/files/research/chousa/pdf/r4/2022hosho.pdf
*参考:厚生労働省「令和4年 簡易生命表(平均寿命データ)」
・簡易生命表(確定版) 全体 PDF
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/dl/life22-15.pdf
老後資金づくりの主な方法
前章までの流れを踏まえ、ここからは 開業医の先生が実際に取り得る方法 をいくつか見ていきたいと思います。老後資金づくりは何か一つを選べば良いというものではなく組み合わせで将来の安定感は大きく変わりますので、まずは全体像をつかんでいただければ幸いです。
方法①:国民年金の付加年金を活用する
取り組みやすい選択肢として、国民年金の付加年金があります。これは通常の国民年金保険料に 月額400円を追加で納付 することで、将来の受取額が「月200円 × 納付月数」の分だけ上乗せされる仕組みです。たとえば、10年間付加年金保険料を納付すると合計48,000円の支払となりますが、受取年金が24,000円増えます。つまり2年間で元が取れる、仕組みがシンプルでメリットも分かりやすい制度です。最新の情報は日本年金機構HPをご参照ください。
*参考:日本年金機構「付加保険料の納付」
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/fukanofu.html
方法②:医師年金を活用する
老後資金づくりの一つの柱として検討されることが多いのが、医師年金(日本医師会の年金制度) です。国民年金だけでは将来が少し心許ないと感じる先生が、「長期の備えとしてもう一段、安定した仕組みを加えておきたい」と考える際によく話題にあがります。
医師年金は、日本医師会に所属する満64歳6カ月未満の医師が加入できる制度で、毎月の掛金を積み立てていくことで将来の受給額を確保していく仕組みです。基本年金に加えて任意の加算年金を組み合わせることができ、掛金の負担感と将来受け取りたい水準のバランスを取りながら柔軟に設計できます。受給開始は満65歳からですが、最大75歳まで繰り下げることで受給額を増やすことも可能です。
また、医師年金は単に老後のための積立というだけではなく教育資金に充てられたり、万が一の際には遺族年金として支給されたりと、幅広い用途に対応しています。家計の中に一つ長期の柱を置いておきたいという考え方とも相性が良く、私共がご相談を伺う中でも選択肢の一つとして検討される先生が多い印象です。制度の詳細や最新情報は、日本医師会の公式ページで確認いただけます。
*参考:日本医師会「医師年金公式ページ」
https://nenkin.med.or.jp/about/
方法➂:開業時・勇退時のコストを抑える
老後資金というと、「何を積み立てるか」「どの保険に入るか」といった、貯める方向に意識が向きがちですが、実は「将来の支出をどれだけ抑えられるか」 という視点も同じくらい大切です。
●開業には想像以上にコストがかかる
新規開業となると、内装・医療機器・備品・広告・スタッフ採用と、まとまった初期投資が必要になります。さらに開院直後はどうしても集患に時間がかかり、軌道に乗るまでの収支も不安定になりがちです。「開業のタイミングで思ったより資金が出ていってしまった」という声は珍しくありません。こうした背景から、後継者不在の既存医院を引き継いでスタートする「継承開業」という手段で初期投資を抑える方法を選択される先生も増えています。既にある患者さん・スタッフ・設備をそのまま活かせるため、老後を含めた長期の資金計画にもゆとりを生みやすい選択肢になります。
●勇退時にも見えないコストが発生する
閉院を選ぶ場合、医療機器の処分費用・原状回復・リース解約・患者さんへの対応・スタッフの雇用調整など、多くの手間とコストが発生します。診療に専念してこられた先生ほど、「ここまで費用がかかるとは思わなかった」と驚かれることも少なくありません。ここでも選択肢の一つになるのが、医院を誰かに引き継ぐという方法(第三者医院継承) です。廃院に比べてコストを大きく抑えられ、何よりも先生が築いてきた地域医療を未来につなぐという価値があります。そしてもう一つの大きなポイントとして、譲渡対価を得られる という資金面でのメリットがあります。
開業希望の先生は初期投資を抑えられ、勇退を検討される先生は廃院コストを回避でき、さらに譲渡対価というプラスを得られる。双方にとって合理的だからこそ、医院継承は老後資金づくりの一要素としても判断材料になり得ます。どの道を選ぶかは先生それぞれの価値観ですが、少し早めに検討を始めておくことで選択肢が広がり、結果として負担を抑えられるケースが非常に多いと、日々ご相談を伺う中で実感しています。
医院継承のメリット・デメリットについては、こちらもご参考ください。
医院継承に関する無料相談実施中
メディカルプラスでは、開業医の皆さまに、早めにクリニックの将来について考えはじめることをおすすめしています。開業医の老後資金や将来設計は、年金制度だけでなく、開業時・勇退時に発生するコスト、そして今後医院をどうしていくべきかといった視点が複雑に絡み合うからです。「これから何を考えればよいのか」「自分の場合はどんな選択肢があるのか」といった疑問は、お一人で整理しようとしても見通しが立ちにくいものです。
弊社は2016年の創業以来、地域医療の継続と発展に貢献することを理念とし、医院特化の第三者継承支援を提供してきました。ご勇退を見据えた将来の準備について、また継承開業を含めたキャリアの選択肢について、先生の状況に合わせて丁寧にお話を伺っています。「まずは情報だけ整理したい」「まだ具体的ではないけれど話を聞いてみたい」、そのような段階でもお気軽にご相談いただければと思います。無料相談を随時実施しておりますので、後継者問題でお悩みの方、開業を検討中の方、第三者継承について知りたい方は、お気軽にこちらより【お問い合わせ】お問い合わせください。
この記事の著者

豊島 太郎(とよしま たろう)
株式会社メディカルプラス コンサルティング営業本部 医院継承事業部 リーダー
豊富な業界経験に加え二級建築士の資格を持ち、クリニックの内装やインテリア関連の知識にも明るい多才なアドバイザー。建設不動産関連業務を約7年経験、その中で人それぞれの人生とその大切さについて深く考える出来事を多く経験。メディカルプラス参加後は5年間で約40件以上の継承に立ち会い、医師の人生のターニングポイントに立ち会うやりがいを原動力にサポートを行う。穏やかな物腰と優れた傾聴力に社内外から定評あり。
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