兵庫県の医院開業動向
瀬戸内海から日本海まで広がる兵庫県は、神戸市を中心とした都市部の高度医療体制と、淡路島や但馬地方の地域医療が共存する独特な地域です。人口構造の変化や高齢化が進む中、地域に根ざしたクリニックが求められています。ここでは兵庫県内の医療需要や開業のポイントについて解説します。

1.兵庫県の基本情報と特徴
兵庫県の年齢別人口推計(2020年~2050年)を割合で見ると、全国的な傾向と同様に高齢化が進み、生産年齢人口の割合が縮小していく見通しです。2020年時点では0~14歳が12.2%、15~64歳が58.5%、65歳以上が29.3%を占めていました。しかし、2050年には0~14歳が10.0%まで減少し、生産年齢人口は50.5%に縮小、高齢者人口は39.5%に達すると予測されています。日本の主要都市とも言える、国際色豊かな「神戸市」を中心に多様な経済活動が行われており、医療や福祉の充実が地域社会の安定に重要な役割を果たしています。しかし、少子高齢化の影響で地域医療の需要が増加する一方、生産年齢人口の減少により医療従事者の確保や地域間の医療格差が課題となっています。

特に高齢化が進む地域では、在宅医療や高齢者向けの医療サービスが今後さらに重要となることが予測されます。兵庫県では、地域特性を活かした医療体制の整備とともに、クリニックの役割がより一層求められるでしょう。少子高齢化社会に対応できる医療資源の充実は、兵庫県ならではの活気ある地域社会を維持するために不可欠とし、県をあげて取り組んでいます。

●面積
8,400.95平方キロメートル(全国第12位)〔2024年1月現在〕
●人口
約5,459,000人(全国第7位)〔2024年1月現在〕
●県庁所在地
神戸市
●政令指定都市
神戸市
●県内の市町村数
29市12町(計41市町)
●気候
兵庫県は瀬戸内海式気候と日本海側気候の影響を受け、温暖で少雨の地域から豪雪地帯まで多様な気候を有します。
●観光
兵庫県は世界遺産の姫路城をはじめ、神戸の異人館や有馬温泉など、歴史的建造物や自然美が豊かな観光地が多数あります。

●歴史
兵庫県は古代からの豊かな歴史を持ち、国宝姫路城をはじめ多くの歴史的建造物が存在します。平安時代には播磨国の中心地として栄え、戦国時代には多くの合戦が行われました。近代では、神戸港の開港により国際交流の窓口となり、多文化が融合する地として発展しました。
●自然
瀬戸内海の穏やかな海岸線から、日本海に面した厳しい自然環境、そして中国山地の豊かな森林に至るまで、多種多様な自然環境を持っています。六甲山地や但馬地方の豊かな自然は、ハイキングやスキーなどアウトドア活動の絶好の場所です。

●産業
産業は、神戸の港を中心とした貿易、製鉄、造船業から、農業、畜産業、そして観光業まで幅広く、特に神戸はファッションやスイーツの発信地としても知られ、変化に富んだ発展と伝統が融合する地域です。
●特産
兵庫県は但馬牛をはじめとする高品質な食材溢れる「食の宝庫」です。有馬温泉周辺で生産される金の湯煎茶、播磨地方の日本酒、神戸牛など、地域ごとに独自の特産品があり、その多様性と質の高さが特徴です。
2.兵庫県の医療機関数と推移
厚生労働省:「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、兵庫県内の病院数は344施設で、全国8,122施設のうち約4.24%を占めています。また、一般診療所数は5,196施設で、全国104,894施設のうち約4.95%を占めています。
過去10年間の診療所数と病院数の推移を見ると、診療所数は2014年の4,983施設から2020年の5,218施設まで増加した後、2023年には5,196施設と若干の減少が見られます。一方で、病院数は2014年時点の353施設から2023年には344施設と漸減傾向にあります。このように、診療所の増加傾向が一時的に減速する一方で、病院数の減少が続いていることが分かります。

出典元の厚生労働省資料では、兵庫県の人口10万人あたりの一般診療所数は約96.8施設となっており、全国平均の84.4施設を上回っています。神戸市などの都市部においては高度医療が充実しており、多くの病院や専門医療施設が集積しています。しかし都市部に医療資源が集中する一方、地方部での医療提供体制が十分でないことは全国の傾向と同様で、特に淡路島や但馬地方では、在宅医療や訪問診療など高齢化に対応した医療サービスへの需要が高まっています。こういった地方部では、住民に身近な医療機関としてクリニックが重要な役割を担っており、地域医療の基盤を支えていますが、医療供給が十分とは言えず、今後兵庫県全域で医療資源をバランス良く配分し、地域医療の充実を図ることが必要です。在宅医療や予防医療の推進を通じて、地域住民が安心して暮らせる医療環境を構築することが期待されています。
3.兵庫県の医師数と推移
厚生労働省:「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国で医療施設に従事する医師数が327,444名である中、兵庫県で医療施設に従事する医師は14,936名となっています。これは全国の医師数の約4.56%を占め、兵庫県は全国7位の規模となっています。
兵庫県全体の医師数を2014年と比較すると、2,074名増加しており、安定した増加傾向にあります。また、人口10万人あたりの医師数は2022年に276.5名となり、2014年の232.1人と比較して44.4人増加しています。この増加は医師の地域配備の改善を反映していますが、依然として都市部と地方部での医療資源の偏在が課題となっています。

特に神戸市や阪神間では医師が集中し、高度な医療水準を維持しています。一方で、これまでの章でも触れたとおり、淡路島や但馬地方などの地方部では医師不足が続いており、少子高齢化待ったなしの状況で、訪問診療や在宅医療の需要が高まっています。こうした地域では医療資源の確保と地域住民への医療提供体制の強化が求められています。
兵庫県全体として、医師数の増加にともない医療提供体制の改善に向けて邁進していますが、都市部と地方部の偏りを是正する取り組みは依然として必要です。今後は、地域医療の充実に向けた人材育成と、在宅医療の推進を含む総合的な医療政策が重要となるでしょう。
4.兵庫県の医療圏の特徴
兵庫県の医療圏は神戸医療圏、阪神医療圏、阪神北医療圏、東播磨医療圏、北播磨医療圏、播磨姫路医療圏、西播磨医療圏、但馬医療圏、丹波医療圏、淡路医療圏の合計10の二次医療圏から成り立っています。大病院では、病床数の多い順に、兵庫医科大学病院、神戸大学医学部附属病院、神戸市立医療センター中央市民病院、兵庫県立はりま姫路総合医療センター、兵庫県立尼崎総合医療センターがあります。
特徴としては、兵庫県内には高度医療を提供する施設が多数あり、特にがん治療や心臓病治療などの分野で先進的な医療サービスが提供されており、神戸市においては国際医療センターが設置され、外国人患者への医療サービス提供にも対応しています。また、地域特性に応じた医療サービスの体制を進めており、山間部ではオンライン診療の運用など、地域住民のアクセス向上に努めています。過去の阪神・淡路大震災を経験して以降、災害時の医療体制の強化に力を入れており、迅速な医療対応と災害医療支援体制が整っています。
5. 政令指定都市「神戸市」の医院・クリニック開業動向
神戸市の特徴
神戸市は兵庫県の県庁所在地であり、政令指定都市の一つです。全国の政令指定都市の中でも9番目に広い面積を誇り、人口では7番目の規模を持つ都市です。市内には東灘区、灘区、中央区、兵庫区、長田区、須磨区、垂水区、北区、西区の9つの区があり、それぞれが独自の特色を持ちながら、神戸市全体の多様性を形成しています。神戸市の特徴を以下に3つ挙げてご紹介します。
➀. 交通の利便性
神戸市は、新幹線(新神戸駅)へのアクセス、JR神戸線(東海道本線)や阪急、阪神などの私鉄網、地下鉄海岸線を含む複数の交通手段があります。これらは市内外への移動を容易にし、大阪や京都、さらに遠くの地域へのアクセスも良好です。ポートアイランドへはポートライナーが便利で、六甲アイランドへは六甲ライナーが結びます。多様な交通手段が神戸市の交通の利便性と効率性を高めており、住民や観光客にとって非常に便利な都市環境となっています。
②. 商業的な観点
長い歴史を通じて外国文化の影響を受けてきた神戸市は、異国情緒も特徴です。異人館地区は、その多文化的な雰囲気を今に伝え、神戸港は国際的な交流の窓口となっています。神戸コンベンションセンターは国際会議やイベントが頻繁に開催される場所としても知られています。神戸の元町や三宮はショッピングスポットとして有名で、食については、神戸ビーフをはじめ、様々なグルメが楽しめる食の都市ともしられております。中華街(南京町)も人気のスポットの一つです。
③. 教育環境
神戸市は、多様な教育機関が充実している都市です。国際バカロレア資格を提供する学校を含む国際学校が存在し、外国語教育にも力を入れています。公立・私立の幅広い選択肢があり、高等教育機関も豊富にあります。兵庫県立大学や神戸大学など、研究と学問の中心地としても知られており、学生に高い教育水準と国際的な環境を提供しています。
神戸市の診療所数
厚生労働省:「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」で神戸市の診療所数を見ると、1,643施設です。これを人口10万人当りの診療所数に換算すると、109.5施設で、兵庫県全体の平均101.3施設を上回っていることから、神戸市は県内でも診療所数が多めのエリアであることが分かります。
日本医師会の「地域医療情報システム」を活用すると、より詳細な診療圏に関する情報を集める事ができ、開業エリアを決めるうえでの参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。こちらのシステムでは2024年12月確認時点で、神戸医療圏の診療所数が1,504施設となっており、兵庫県内の他9つの医療圏と比べても多い施設数です。神戸市に存在する高度医療が集積し地域の医療サービスが進む環境であることが背景として考えられます。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の840施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の405施設という状況です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の62施設です。
神戸市の医師数とその推移
厚生労働省:「厚生労働省:「令和4年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、兵庫県全体で医療施設に従事する医師数が14,936名であることに対し、神戸市で医療施設に従事する医師数は5,234名(兵庫県全体の約35.0%)です。また人口10万人対医師数では、全国平均262.1人、兵庫県276.5人に対し、神戸市は346.6人となっています。神戸市は県内のみならず、全国平均と比較しても医師数が多いエリアと言えるでしょう。過去10年間の推移を見ても、神戸市の医師数は2014年の4,588名から2022年の5,234名へと上昇しています。

日本医師会の「地域医療情報システム」を活用すると、より詳細な診療圏に関する情報を集める事ができ、開業エリアを決めるうえでの参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。
こちらのシステムでは2024年12月確認時点で、神戸医療圏の人口10万人対医師数は 915.91人で、兵庫県内の他医療圏と比べて圧倒的に多い状況となっており(全国平均は人)、開業医へのニーズは非常に高い傾向にあると伺えます。神戸市に次ぐ阪神医療圏の327.26人を除くその他の8つの医療圏については、すべて全国平均を下回っていることから医師が神戸医療圏と阪神医療圏に集中していることが伺えます。その他の阪神北医療圏では211.33人、東播磨医療圏215.36人、北播磨医療圏256.99人、播磨姫路医療圏258.19人、西播磨医療圏196.80人、但馬医療圏227.80人、丹波医療圏243.47人、淡路医療圏228.84人となっております。神戸医療圏への医師の集中は他の全国医療圏を見ても特徴的でありますので、開業を検討される際には十分に周辺の施設動向を確認しましょう。
6.その他兵庫県の開業動向のまとめ
兵庫県においては、県庁所在地であり政令指定都市でもある神戸市が、突出して診療所数が豊富です。また全国の他の医療圏と比べても医師が非常に多いことから、神戸市での開業を検討される際には、周辺施設の医療提供の状況を十分に確認することが求められるでしょう。また神戸医療圏、阪神医療圏以外のエリアでは今後は全国的な課題である医師の高齢化、後継者不在に対応した継承開業が求められてくると考えられます。
日本の少子高齢化に準じ、兵庫県でも医師高齢化や後継者不足の課題が顕在化しています。そして診療所という身近な医療が、廃業・閉院により途切れることなく継続することは、豊かな地域社会の実現に不可欠です。そんな中で後継者のいないクリニックでは、M&Aという手段で第三者医院継承を行うことも増えており、M&Aが地域医療の継続の一端を担うものとして昨今注目されるようになっています。
医院継承は、売主様にとっては医院の歴史を引き継ぎ、従業員の雇用を守る手段となる一方で、買主様にとってはスムーズな経営スタートが可能となる選択肢です。M&A仲介業者は、兵庫県の開業動向について、地域の将来性も見据えた詳細の情報を詳細に調査のうえ開業希望者に提供しますので、新規開業以外に、いまあるクリニックを患者さんとともに引き継ぐ継承開業という手段もぜひご検討ください。
※日本医師会提供の「地域医療情報システム」では、地域ごとの医療機関情報や統計データをご確認いただけます。数値は2020年国勢調査のデータを基にしており、最新情報に基づいて変更される場合がありますので、随時ご確認ください。