滋賀県の医院開業動向
日本最大の湖・琵琶湖を抱え、関西圏の一部として発展を遂げてきた滋賀県。豊かな自然と歴史文化が共存しながらも、エリアごとに異なる医療課題を抱えています。大津市や湖南地域では都市型医療の需要が高まり、湖北・湖西エリアでは高齢化の進行に伴う地域医療の充実が求められています。これらの特性を踏まえ、滋賀県での医院開業の可能性について、データを交えながら解説します。

1.滋賀県の基本情報と特徴
●年齢別推計人口
滋賀県の年齢別人口推計(2020年~2050年)を見ると、全国的な少子高齢化の傾向と同様に生産年齢人口の割合が減少し、高齢者人口が増加することが予測されています。2020年時点で0~14歳が13.6%、15~64歳が60.1%、65歳以上が26.3%を占めていましたが、2050年には0~14歳が10.9%に縮小し、生産年齢人口は52.4%へと減少する一方、高齢者人口は36.7%に達すると見込まれています。

このように、高齢化の進行と生産年齢人口の減少は、滋賀県の医療ニーズに大きな影響を与えると考えられます。特に、高齢者向け医療の充実が求められる一方で、日本全体と同様、都市部と地方の医療機関の偏在や診療所・クリニックの後継者不足が今後の課題となります。
滋賀県は京都・大阪に近接し、大津市を中心に都市部の医療環境は比較的充実していますが、湖西・湖北エリアでは医療資源が不足する傾向にあります。また、琵琶湖を中心とした観光エリアでは、観光客向けの医療サービスも求められるなど、地域ごとに異なる課題があります。こうした背景を考慮しながら、医療提供体制の強化と後継者不足への対応を行うことが、県を上げての重要課題とされています。

●面積
4,017.38㎢(全国38位)〔2024年1月時点〕
●人口
1,382,000人(全国26位)〔2022年10月時点〕
●県庁所在地
大津市
●政令指定都市
なし
●県内の市町村数
13市6町(計19市町)*村はありません
●気候
滋賀県は内陸性気候とされますが、北部は日本海側気候(北陸・山陰型)、南部は太平洋側および瀬戸内海式気候の特徴を持つなど、多様な気候特性を備えています。特に琵琶湖の影響により、他の盆地と比べて夏の暑さや冬の寒さが和らぐ点が特徴です。一方で、湖西・湖北エリアは特別豪雪地帯や豪雪地帯に指定されており、冬季の積雪が多い地域もあります。
●観光
日本最大・最古の湖である琵琶湖を滋賀県の観光資源の中心に、大歴史的・文化的な観光スポットが点在しています。特に有名なのは、近江最古の大社・白鬚神社、徳川譜代の井伊家が築いた彦根城、比叡山延暦寺(日本天台宗の本山)など。さらに、天智天皇を祀る近江神宮や、織田信長の居城・安土城跡も全国的に知名度の高いスポットです。

●歴史
「滋賀」という地名には複数の由来があり、「石の多い土地」を意味する「シカ(石処)」説、砂州・低湿地を指す「スカ(砂処)」説、志賀島の「シガ」に由来する説などがあります。
明治4年の廃藩置県により当初は「大津県」とされましたが、県庁所在地が滋賀郡大津町だったことから、「滋賀県」に改称され、現在に至ります。
●自然
滋賀県の自然は、日本最大の湖である琵琶湖を中心に形成されており、湖岸部には肥沃な土壌が広がっています。東側には伊吹山地や鈴鹿山脈がそびえ、特に伊吹山(標高1,377m)は豪雪地帯として知られ、冬には多くの雪を蓄えます。一方、西側には比良山地や比叡山が広がり、豊かな森林を抱えながら琵琶湖西岸の景観を形作っています。また、琵琶湖の影響により、湖岸部の気温は比較的穏やかで、他の盆地と比べると寒暖差が抑えられる傾向にあります。しかし、湖北や湖西エリアでは冬季に強い北西風や豪雪の影響を受けやすく、地域ごとに異なる気候が見られるのも特徴です。

●産業
滋賀県の主要産業は製造業が最も盛んで、県内の経済を支える重要な分野となっています。これに続くのが不動産業や卸売・小売業で、商業活動も活発です。産業別の就業者割合を見ると、農業や漁業などの第一次産業は約2.6%と比較的少なく、製造業を中心とする第二次産業が約32.6%、サービス業を含む第三次産業が約64.8%を占めています。名目県内総生産額は約6兆7,679億円に達し、全国的にも安定した経済規模を誇ります。
●特産
滋賀県の特産品には、日本三大銘柄牛の一つ「近江牛」や、琵琶湖に生息する固有種「セタシジミ」などがあります。また、工芸品では国指定伝統的工芸品「信楽焼」(日本六古窯の一つ)、近江上布、彦根仏壇が全国的に知られています。
2.滋賀県の診療所数・医師数と推移
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、滋賀県内の病院数は58施設で、全国8,122施設のうち約0.71%を占めています。また、一般診療所数は1,143施設で、全国104,894施設のうち約1.09%を占めています。診療所数の推移を見ると、過去10年間で108件増加しており、わずかに増加傾向が見られます。一方で、病院数はほぼ横ばいで推移しており、大規模病院の増減は少ない状況です。
ほか出典元によると、滋賀県の人口10万人あたりの一般診療所数は約82.7施設であり、全国平均の84.4施設をわずかに下回っています。このことから、県全体としては診療所の数が全国平均とほぼ同水準で推移しているものの、エリアによって医療資源の偏在が見られます。

過去10年間の推移を見ると、診療所数は増加傾向にあるものの、全国平均と比べるとやや少なめとなっています。特に、滋賀県は京都・大阪などの大都市圏に近いため、都市部の医療圏と連携しながら医療を提供する傾向が強いと考えられます。また、病院数は10年間でほぼ横ばいであり、大規模な病院の新設は少ない一方、診療所を中心とした地域医療が徐々に整備されつつあることがわかります。今後は、都市部と地方の医療格差の解消や、開業・継承による診療所の安定供給が課題と考えられます。
3.滋賀県の医師数と推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、滋賀県で医療施設に従事する医師数は3,412名で、全国で医療施設に従事する医師数327,444名のうち約1.04%を占めています。2014年の2,997名から415名増加しており、安定した増加傾向が見られます。また、人口10万人あたりの医師数は242.2名で、2014年の211.7名と比較して30.5名の上昇となっています。

過去10年間の推移を見ると、滋賀県の医師数は着実に増加しており、人口10万人あたりの医師数も全国平均に近づきつつあります。しかし、医師の地域分布には偏りがあり、大津市や草津市などの都市部に医療資源が集中し、湖西や湖北エリアでは医師不足が続いていることが課題となっています。
また、人口10万人あたりの医師数は全国的に見れば中程度の水準ですが、関西圏の中では比較的少ない状況にあります。今後、滋賀県では医師の地域偏在の解消や、診療所の継承による医療提供体制の維持が重要な課題となるでしょう。
4.滋賀県の医療圏の特徴
滋賀県の医療圏は、大津、湖南、甲賀、東近江、湖東、湖北、湖西の7つの二次医療圏から成り立っています。医療資源は大津市や湖南地域に集中する一方、湖北や湖西エリアでは医療機関が不足しがちで、地域ごとの医療格差が課題となっています。また、県内の大規模病院としては、病床数の多い順に大津赤十字病院、滋賀医科大学医学部附属病院、長浜市立長浜病院が挙げられ、これらの病院が地域の高度医療を担っています。滋賀県の医療圏の特徴を3つにまとめると、以下のようになります。
①. 高齢化率の上昇
全国的な傾向と同様に、滋賀県でも高齢化が進行しており、高齢者向けの医療サービスや介護施設の需要が増加しています。特に、湖北・湖西エリアでは高齢化率が高く、在宅医療や介護サービスの重要性が増している状況です。
②. 在宅医療と介護サービスの充実
高齢者や障がいを持つ人々が自宅で過ごせるよう、訪問診療や訪問看護、介護支援サービスが積極的に導入されています。特に、医師不足が課題となっている地域では、在宅医療の拡充が地域医療の維持において重要な役割を果たしています。
③. 地域特性に応じた医療提供
滋賀県は京都・大阪の大都市圏に近接しており、都市部からの医療需要を受け入れる病院や診療所が多くあります。一方で、琵琶湖周辺の観光エリアでは、観光客向けの医療提供も重要な役割を担っており、救急医療や外傷治療の対応が求められています。
5. 県庁所在地「大津市」の医院・クリニック開業動向
大津市の特徴
滋賀県の県庁所在地である大津市は、県内最大の都市であり、行政・経済・文化の中心地となっています。京都・大阪に近接する地理的特性を活かし、ベッドタウンとしての役割も果たしており、近年では住宅地や商業施設の整備が進んでいます。市の面積は約464.51㎢、2024年1月時点の人口は約34万人です。それでは、大津市の魅力を交通、商業、教育の3つの観点から詳しく見ていきましょう。
➀. 交通の利便性
大津市は、関西圏とのアクセスが非常に優れており、JR西日本の東海道本線(琵琶湖線)や京阪電鉄の京津線が通っています。特に京都市とは隣接しており、JR大津駅から京都駅までは約10分と、新幹線への乗り継ぎもスムーズです。また、名神高速道路の大津ICが市内にあり、関西圏や中京圏への車移動にも便利です。市内の公共交通機関も充実しており、京阪電鉄・近江鉄道・路線バスが市内各地への移動をサポートしています。さらに、琵琶湖沿岸の移動には観光船やフェリーが利用されることもあり、水上交通の選択肢があるのも特徴です。
➁. 商業的な観点
大津市には大型ショッピングモールや商店街が集まり、JR大津駅周辺や京阪びわ湖浜大津駅周辺には多くの商業施設が立地しています。特に、琵琶湖の観光資源を活かした店舗やレストランが多く、観光客向けの商業活動も盛んです。また、滋賀県産の農産物や琵琶湖の恵みを活かした水産物を扱う市場もあり、地元の特産品を活かした商業が展開されています。近年では、新しい商業エリアの開発が進み、住民向けの利便性が向上しています。
➂. 教育環境
大津市には、公立・私立の小中学校や高等学校が多数設置されており、教育機関が充実しています。また、滋賀県立大学や龍谷大学(瀬田キャンパス)といった高等教育機関もあり、学術・研究の拠点にもなっています。さらに、公立図書館や文化施設が整備されており、市内の教育・文化環境の向上にも力を入れています。琵琶湖や比叡山などの自然環境を活かした教育活動も盛んで、地域との連携を活かした学びの場が多く設けられています。
大津市の診療所数
厚生労働省の「令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、滋賀県全体の診療所数は1,143施設であり、そのうち大津市には304施設が存在します。これは県全体の約26.6%を占めており、県内では最も医療機関が集中しているエリアとなっています。また、同出典元によると、人口10万人あたりの診療所数は滋賀県全体で81.2施設であるのに対し、大津市は88.1施設と、県平均を上回る数値を示しています。このことから、大津市は滋賀県内で最も医療提供体制が整っている地域であり、都市部として幅広い診療科目に対応していることがわかります。
さらに、大津市は京都・大阪へのアクセスが良く、近隣の大都市圏の影響を受けながら発展しているため、医療の需給バランスにも都市型の特徴が見られます。クリニックの開業を検討する際には、競争環境を考慮しつつ、診療科目や立地戦略を慎重に選ぶことが求められます。
ほか参考として日本医師会の「地域医療情報システム」を活用すると、より詳細な診療圏に関する情報を得られ、開業エリアを決めるうえでの参考値としてご活用いただけます(最新の地域内医療機関情報の集計値※人口10万人あたりは、2020年国勢調査総人口で計算)。このシステムによると大津市の診療所数は、259施設で、滋賀県内の他の都市(市町村)と比べても多い施設数です。人口が多く、商業も活発なエリアのため、医師が開業しやすい環境であるのがその理由でしょう。なお、診療所の標榜科目の中で、最も多いのが内科系の169施設、次に多いのが外科系(整形外科、脳外科など)の71施設です。逆に、最も少ないのは産婦人科系の10施設です。
大津市の医師数とその推移
厚生労働省の「令和4年:医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、滋賀県全体で医療施設に従事する医師数は3,412名である中、大津市で医療施設に従事する医師数は1,282名(滋賀県全体の約37.6%)となっています。また、人口10万人あたりの医師数を見ると、全国平均は262.1人、滋賀県全体では242.2人に対し、大津市は373.8人と、全国平均・県平均のどちらも大きく上回っています。このことから、大津市は滋賀県内で最も医師の集積が進んでいるエリアであることが分かります。
さらに、医師数の推移を見ても、大津市の医師数は2014年の1,169名から2022年の1,282名へと113名増加しており、人口10万人あたりの医師数も341.8人から373.8人へと上昇しています。

過去10年間の推移を見ると、大津市では着実に医師数が増加しており、人口10万人あたりの医師数も県内の他地域と比較して圧倒的に高い水準を維持しています。これは、大津市が滋賀県の医療拠点として存分に機能していることを示しており、特に総合病院や専門クリニックの集積が進んでいることが要因と考えられます。
一方で、県内の他地域では医師数が不足しているエリアもあり、医療資源の地域偏在が課題となっています。今後は、開業医の誘致や地域医療連携の強化が求められるでしょう。
日本医師会の「地域医療情報システム」を併用すると、さらに傾向が把握しやすくなります。大津市の人口10万人対医師数384.3人は、滋賀県内では多い人数と言え、全国平均256.6人から見ても多いため、開業医へのニーズは飽和傾向と言えます。滋賀県内にある7つの二次医療圏うち、最も医師数が多いのは大津医療圏の384.3人で、7つの二次医療圏のうちかなりの多さとなっています。次いで多いのが湖南医療圏の267.8人で全国平均256.6人を上回っています。しかし、滋賀県内の7つの二次医療圏のうち残り5つの医療圏に関しては滋賀県384.3人および全国平均256.6人以下で、医師が不足傾向にあると言えるでしょう。そのため、滋賀県内で開業する場合には、大津・湖南医療圏以外の、医師が不足している甲賀医療圏、東近江医療圏、湖東医療圏、湖北医療圏、湖西医療圏のいずれかで行った方が、ニーズが高いのでおすすめと言えます。
6.その滋賀県の開業動向のまとめ
6.その滋賀県の開業動向のまとめ
滋賀県は面積4,017.38㎢で全国38位、京都・大阪に近接する立地を活かしながら発展を遂げてきました。県庁所在地の大津市は人口約34万人を擁し、県内最大の都市ですが、診療所数は十分とは言えず、特に湖西・湖北エリアでは医療資源が不足しています。
地域ごとの医療ニーズを見ても、大津市や湖南地域では生活習慣病、予防医療、小児科、産婦人科など幅広い診療科目の需要があり、子育て世代向けの医療環境が整っています。一方、湖北・湖西エリアでは高齢化が進行しており、在宅医療や訪問診療、慢性疾患治療を担う医療機関の開業が求められています。
都市部では専門性を活かした開業が可能であり、医療過疎地域では地域貢献と経営の両立が見込めるのが滋賀県の特徴です。また、新規開業だけでなく既存の診療所を継承する選択肢もあり、安定した患者基盤の確保がしやすい継承開業は、地域医療の維持にもつながります。滋賀県での開業をお考えの方は、こうした地域特性を踏まえたうえで、継承開業という選択肢もぜひ検討してみてください。
※日本医師会提供の「地域医療情報システム」では、最新の地域ごとの医療機関情報や統計データをご確認いただけます。人口10万人あたりの数値は2020年国勢調査の総人口を基に計算されており、最新の情報に応じて数値が変動する場合があります。必要に応じて、随時ご参照ください。