皮膚科の医院開業動向
かゆみや見た目の変化など日常の「気になる」に応える皮膚科は、患者さんとの距離近い診療科。保険診療を軸とした回転率の高い診療を行うスタイルから、自由診療で専門性や美容ニーズに応えるスタイルまで、幅広い選択肢があり、自分らしい診療設計がしやすいのが特徴です。立地選びからWEB活用、診療内容の打ち出し方にも大きな自由度があり、開業全体を自分らしくプロデュースできるのも皮膚科の魅力です。本記事では皮膚科開業のいまを、データ交えてお伝えいたします。

1. 皮膚科の開業トレンド

●診療内容の変遷について
皮膚科は、外来で完結しやすく、診断・処置・経過観察・指導までを医師自身が一貫して行えるという特性から、早くから無床クリニックによる開業が一般的となった診療科です。「深刻ではないけれど気になる」「なるべく早く診てほしい」といった軽症相談の受け皿として、地域の中で身近な存在を担ってきました。1980〜90年代には、アトピー性皮膚炎の社会的注目の高まりとともに、慢性的な皮膚疾患に対する通院ニーズが一気に拡大。皮膚科は「かかりつけ」としての役割を強めながら、地域医療の中核的なポジションを築いていきます。
近年では、ダーモスコピーやパッチテストの普及によって診断の質が高まる一方、都市部を中心に、AGAやしみ・しわ・脱毛といった自由診療を一部取り入れる「ハイブリッド型」のクリニックも増加傾向にあります。一方で、従来の保険診療において、診療密度と効率性を追求した「保険特化型」の高回転クリニックを志向する動きもあり、皮膚科開業は今、「自分らしい診療スタイル」を形にできる時代へと進化していると言えるでしょう。

●皮膚科の特徴
皮膚科は、外来で完結する症例が多く、医師自身の手で完結できる工程が多いため、個人クリニックとの相性が非常に良い診療科です。湿疹やかぶれなどの一次的なトラブルから、アトピー性皮膚炎・乾癬などの慢性疾患、美容・アンチエイジング領域まで、対応範囲は広く、患者さんも小児から高齢者まで幅広い世代にわたります。特に皮膚科の診療は「一度で終わり」ではなく、「通いながら整えていく」性質が強いため、患者さんにとっては「気軽に行けて、しっかり診てくれる」クリニックの存在が重要です。通いやすさが、そのまま診療の質につながる場面も少なくありません。
加えて、皮膚科は診療スタイルの自由度が高く、保険診療を軸に効率的な運営を行うことも、自由診療を通じて専門性を打ち出すことも可能です。他科と比べて他医療機関との連携が少ないぶん、自院の裁量で診療体制や方針を組み立てやすい点も特徴です。予約や決済の仕組み、情報発信、広告戦略といった“経営面の工夫”がそのまま診療体験に反映されやすいのも皮膚科ならでは。自ら意思決定を行い、理想とする診療を実現したい先生にとって、皮膚科開業は大きなやりがいと可能性を備えたフィールドと言えるでしょう。
2 皮膚科を標ぼうする診療所数の推移
厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、皮膚科を標ぼうする診療所数は13,185施設で、全国104,894施設のうち約12.6%を占めています。この推移を見ると、平成23(2011)年の11,518施設から令和5(2023)年までの11年間で1,667施設の増加となっており、皮膚科クリニックの数は増加傾向にあることが読み取れます(下図参照)。

グラフを見ると、2014年を一度のピークとして、その後やや減少した時期を経ながらも、2020年以降は再び増加傾向に転じ、令和5年には13,000件を超える水準に到達しています。明確な因果は統計上示されていないものの、都市部を中心に、保険診療に加えて自由診療(美容皮膚科やAGA・脱毛など)を併設する開業モデルが広がっていることが、件数の増加を後押ししている可能性も考えられます。(※皮膚科としての医師数の増加率自体は美容外科ほどの急増ではなく、2008年比で約1.3倍の緩やかな伸びであることが確認されています)
なお、皮膚科は全国39科目中で6番目に多い診療所数を有しており、身近で継続的な医療ニーズに応える診療科として、今後も安定的な地域ニーズが見込まれる分野です。一方で、都心と地方で分布にばらつきがあることから、開業にあたっては地域特性をふまえた診療圏の見極めがますます重要になると言えるでしょう。
3. 皮膚科の医師数と推移
厚生労働省「令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、皮膚科に従事する医師は全国で10,031名となり、10年前(平成24年)の8,686名から約1,300名の増加となっています。皮膚科医の総数は、全医師数327,444名のうち約3%を占めています。

このうち診療所に勤務する皮膚科医は6,124名と、平成24年の5,158名から約1.2倍に増加しており、近年ではクリニック勤務の皮膚科医が着実に増えてきていることがうかがえます。
4. 皮膚科の開業資金
一般的な開業ケースを「保険外来の診療」「手術しない」「テナント開業」と定義して計算した場合、下記のようになります。
●物件賃料:
皮膚科クリニックの最低限25~50坪程度必要を考えられ、一般診療のみとした場合、待合室や診察室、専門的な処置スペースを含めて40坪前後が必要と仮定した場合、坪単価を1万円とすると、40万円と試算出来ます。
●不動産関連費用:
敷金240~400万円、礼金40万円、仲介手数料40万円と試算。なお、敷金、礼金、仲介手数料は不動産仲介会社によって金額が異なるため、事前にご確認されることを推奨いたします。
●内装工事費用:
坪単価50~60万円とすると、面積40坪の場合は2,000~2,400万円と試算出来ます。
●医療機器:
顕微鏡、レーザー系機器各種(炭酸ガスレーザー、Qスイッチルビーレーザー、紫外線治療器)、電子カルテ、その他機器(AED、滅菌機、無影灯、その他)を合算すると約1,690万円程度と試算出来ます。
●什器備品:
200~300万円
●広告宣伝費(HP・看板・パンフレット):
300万円
●採用費(職員雇用):
20万円
●開業諸費用(医師会入会金):
100~200万円
●コンサルタント費用:
0~300万円
●運転資金:
1,500~2,000万円

なお、下記を行う場合は追加で費用が必要となります。
●切開手術などに対応するための設備費用:
クリニックの規模、対応手術の内容に左右されますが1,000万円前後と試算。
5. 皮膚科の開業成功のポイント
①. 差別化
皮膚科は、日常的な皮膚トラブルに広く対応する診療科です。「何かあったら、まず近くの皮膚科へ」という感覚が一般化している今、地域の「かかりつけ医」的なポジションをどう果たすかが、開業成功のポイントとなります。そのためには、診療の方向性を丁寧に描き、他院と自然に差がつく自院の強みを設計することが重要です。
●対象疾患・患者層の明確化:
保険診療の範囲でも、皮膚科は対応できる疾患が非常に広いため、「何を主軸に据えるか」を定めることで患者さんに認知され選ばれ、診療にも深みが生まれます。たとえば、小児の皮膚疾患やアトピーへの対応に力を入れる、小外科処置(粉瘤・ほくろ・巻き爪など)を積極的に行う、高齢者の皮膚管理や褥瘡予防に対応するなど、地域の年齢構成や生活環境に合わせた診療テーマの明示が、患者さんの選ぶ理由につながります。
●競合との差別化として自由診療をどう扱うか:
都市部では、保険診療に加えてしみ・しわ、AGA、脱毛といった自由診療を一部取り入れるクリニックも増えています。ただしこれは必須ではなく、あくまで“選択肢の一つ”として、自院の方針とマッチするかどうかを慎重に判断することが大切です。地域の競合状況を見たうえで、「保険診療に特化し、丁寧で効率的な診療を追求する」スタイルも、十分に差別化の武器になります。
●気持ちに配慮したクリニック設計・雰囲気づくり:
皮膚科は「相談のしやすさ」や「通いやすさ」が受診のきっかけを大きく左右する診療科です。特に皮膚疾患は、かゆみや痛みに加え、症状が“目に見える部位”に出ることも多く、日常生活での不安や気がかりと隣り合わせです。だからこそ、清潔感のある待合室、落ち着いた雰囲気づくり、プライバシーへの配慮、バリアフリー対応など、患者さんが安心して過ごせる空間づくりが、満足度の高い診療体験につながります。
●通いやすさを支える運用体制・接遇:
皮膚科は継続通院が前提となるケースが多いため、再診予約のしやすさ、待ち時間短縮の工夫、看護師・受付などのスタッフ対応力も「やはりこのクリニックがいい」と患者さんが思える理由のひとつになります。Web予約やLINE通知、オンライン問診などのツール導入も、通院の手間を軽減し、患者さんとの関係性を育てる有効な仕組みになります。
②. 物件の選択肢
皮膚に症状が出たとき、「かゆい」「いたい」のほかに、「見た目が気になる」と感じる患者さんも少なくありません。「なるべく早く、そして近くで診てもらえる」という安心感はとても大切です。だからこそ皮膚科は、生活圏に溶け込んだ立地との相性が非常に高い診療科といえるでしょう。
●生活導線上にあることが重要:
皮膚科開業の立地は「行きやすさ」「立ち寄りやすさ」が、初診・再診ともに来院ハードルを大きく左右すると言えるでしょう。湿疹やかぶれ、小児の皮膚トラブルなど、日常の延長で気軽に受診したいというニーズが多いため、駅近や幹線道路沿い、商業施設内など、生活導線上にある物件は非常に親和性が高く、集患上も有利です。また、駐車場・駐輪場の有無やバリアフリー設計も、ファミリー層や高齢者層のアクセス性に直結するため、立地選定時の重要な視点となります。
●自由診療の有無でも立地判断が変わる:
皮膚科では、診療スタイルの違いが立地選定にも影響します。保険診療を軸とする場合は、視認性やアクセスの良さといった「通いやすさ」が重視され、駅前や商業施設内、生活導線上など、高頻度の来院に対応しやすい立地が好まれます。
一方、自由診療(美容皮膚科やAGAなど)を多く扱う場合には、プライバシー性や空間の雰囲気が立地選定のポイントに加わります。落ち着いた環境・人目を気にせず来院できる導線設計・非日常感のある内装など、医療サービスとともに「体験価値」も提供することが重要となるからです。
もちろん、保険診療においても診察内容のデリケートさからプライバシーへの配慮は欠かせませんが、自由診療ではさらに高いレベルの空間設計が求められる傾向があります。診療スタイルに応じた立地選びは、皮膚科開業における最初の戦略的意思決定と言えるでしょう。
③. 集患マーケティング
皮膚科の診療は、小さなトラブルから慢性的な疾患、そして美容・アンチエイジング領域まで、受診理由が幅広いのが特徴です。だからこそ、誰に・どのニーズに応えていくのかを明確にした上で、認知の広げ方や情報の届け方を工夫することが、安定的な来院につながります。
●Webサイトは選ばれるクリニックのために重要:
皮膚に不調を感じたとき、多くの患者さんはまず「どこで診てもらえるか」をスマートフォン等で検索します。検索結果に表示されるホームページやGoogleマップの情報は、来院の意思決定に直結する重要な接点です。対応している症状や診療方針、院内の雰囲気、予約方法、アクセスといった“気になる情報”があらかじめ分かりやすく整理されていることで、「ここなら安心して相談できそうだ」と感じてもらえる機会が広がります。とくに皮膚科では、「肌の痒み・痛みがなくなる」「荒れた皮膚が健康に整う」といった「変化の実感」が期待される診療科であるため、視覚的な印象も大切です。診療内容の信頼性をしっかり伝えると同時に、「整っていく実感に寄り添う」トーンやデザインで、患者さんが前向きな気持ちで扉を叩けるようなサイト設計が、皮膚科クリニックにとっては特に有効だといえるでしょう。
●Googleマップのクチコミは来院前の「診察体験」:
昨今の患者さんは、クリニックを探すときにGoogleマップでの評価やクチコミを必ずチェックします。「アトピーの説明がわかりやすかった」「ニキビ治療が丁寧だった」といた、患者さん自身の言葉での評価は、新規患者さんの来院を後押しします。大げさなPRよりも、自然にポジティブな感想が出てくるような診療体験の設計が、結果的にクチコミの質を高めていく近道です。
●「探され方」を考慮したWeb設計:
患者さんは、「クリニック名」よりも「症状名」や「悩みベース」で検索する傾向が強くあります。たとえば「赤み 皮膚科 渋谷」「アトピー かゆい クリニック」など、地域名+お悩みキーワードで検索されたときに、きちんと見つかることが大切です。そのためには、症状ごとのページ構成や、Googleビジネスプロフィールでのカテゴリ設定・投稿の工夫が必要です。HP制作会社としっかり打ち合わせを行い「自院が検索で見つけてもらえる設計にしてほしい」と伝えましょう。開業前から「患者さんはどう探すのかな?」と想像力を膨らませ、ニーズに即したWeb設計を意識しておくことが、集患の立ち上がりを左右します。
●患者さんの目線の高さに合った情報発信を:
皮膚科では、保険診療も自由診療領域でも、「このクリニックなら大丈夫そう」と思ってもらうまでの「安心の積み重ね」が大切になります。症例写真や施術の流れ、カウンセリングの様子、よくある質問などをわかりやすく示すことで、不安のハードルを一つずつ下げることができます。LINE公式アカウントやInstagramの活用、Web予約・リマインド通知との連携など、非接触での関係構築ツールも重要です。とくに「定期的に通って状態を整えたい」慢性疾患の患者さんにとって、「通いやすいクリニック」という体験をデザインすることが、信頼と継続来院に直結します。先生の想いを活かし、患者さんに提供したい診療を発信していきましょう。
6. 皮膚科の開業動向のまとめ
皮膚科は、診断から処置までを医師が一貫して担いやすく、外来完結型の診療が中心となることから、個人開業との親和性が非常に高い診療科です。湿疹やアトピー性皮膚炎といった慢性疾患に継続して対応し、保険診療に加えて自由診療のニーズも取り込める柔軟な診療スタイルが取れる点も、近年の開業数の増加を支える要因となっています。皮膚科を標ぼうする診療所数はこの10年で着実に増加しており、また診療所に勤務する皮膚科医の数も増加するなど、皮膚科の“活躍の場”が病院からクリニックへと大きくシフトしていることが見て取れます。
さらに近年では、美容皮膚科やAGA・脱毛などの自由診療領域との併設も進み、診療の幅が拡がったことで開業モデルの多様性が増し、「自らの判断で診療を組み立てていきたい」と考える医師にとって、皮膚科開業は魅力的な選択肢になっています。また、下図は1975年から2023年までの皮膚科診療所数の推移を表したものです。長期に見ても、皮膚科は一貫して堅調な増加を続けており、時代の変化にも適応しやすい、安定した開業科目であると言えるでしょう。

●皮膚科ニーズの多様化と診療スタイルの進化:
皮膚科は、軽症の皮膚トラブルから慢性疾患、美容領域まで、幅広いニーズに応える診療科です。小児から高齢者まであらゆる世代を対象とし、保険診療を中心にするか、自由診療を組み合わせるかで、診療スタイルは多様化しています。
●勤務形態と診療体制の変化:
この10年で皮膚科医の数は大きく伸び、とくに診療所勤務の医師が倍増しています。背景には、自由診療の広がりや、働き方への志向の変化があると考えられます。また、1施設あたりの医師数はほぼ変わらず、1診体制を基本とした開業スタイルが主流であることも、皮膚科の特徴です。開業にあたっては、柔軟な診療設計に加えて、オペレーションや人材管理など、運営面の視点も求められています。
●継承開業という選択肢:
皮膚科開業においては、新規開業と並んで「継承開業」も注目される選択肢です。既存の患者さんがすでについており、スタッフや医療機器もそろっているため、開業初期の不安を大きく軽減できるのが最大のメリットです。とくに皮膚科は、患者さんとの信頼関係が継続的な通院に直結する診療科であり、ゼロから患者基盤をつくるよりも、既存の信頼を引き継げる点は運営の安定性にも直結します。
メディカルプラスでは、皮膚科をはじめとする各診療科において、継承開業というかたちでの開業支援を行っています。近年では、地域医療を長年支えてこられた先生方が、後継者不在によりやむなく勇退を選ばれるケースも少なくありません。こうしたクリニックには、すでに地域の患者さんが定着し、経営実績やスタッフ体制も整っているという大きな強みがあります。
あらたに開業を検討される先生にとっては、経営の見通しを立てやすく、理想とする診療スタイルを無理なく実現しやすいという点で、継承開業は非常に現実的で合理的な選択肢です。また、地域にとっても「身近な医療機関がこれからも続いてくれる」という安心感は、かけがえのない価値になるでしょう。クリニックをゼロからつくるだけでなく、「引き継いで未来へつなぐ」という選択肢もあります。そんな可能性にご関心をお持ちの先生は、ぜひお気軽にご相談ください。