形成外科の医院開業動向

差別化次第で広がる開業スタイル、保険診療から美容領域まで設計可能。

形成外科は、差別化の方向性によって診療・経営スタイルを多彩に描ける診療科です。外来小手術や慢性創傷の管理といった保険診療を基盤にしながら、美容領域を一部取り入れるなど、設計の幅は大きく広がります。本記事では形成外科クリニック開業の特徴を、最新動向をデータとともに整理いたしました。

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1. 形成外科の開業トレンド

形成外科の医院開業動向

●診療内容の変遷について

形成外科は本来、熱傷や外傷、先天異常など「再建外科」を担う病院ベースの診療から発展してきました。かつては入院や全身麻酔を前提とする症例が多く、個人開業との親和性は決して高くありませんでした。しかし1980年代以降、皮膚・皮下腫瘍の切除、瘢痕・ケロイド治療、眼瞼下垂などの機能改善手術といった局所麻酔で外来完結できる処置が広がったことで、形成外科が地域クリニックで担える領域が明確に増えていきます。

2000年代に入ると、創傷被覆材や陰圧閉鎖療法(NPWT)の普及によって、糖尿病性潰瘍や褥瘡など慢性創傷の外来管理が可能に。高齢化の進行と相まって「創傷ケアの専門性」を求める地域ニーズが高まり、クリニックでの形成外科の存在感は一層強まりました。さらに近年は、美容医療を一部取り入れる開業モデルが都市部で広がっています。しみ・しわ・医療脱毛といった自由診療を加えるケースもありますが、その際も「医学的に妥当な範囲を、安全に提供できること」が形成外科の大きな強み。美容外科と異なり、機能と安全性を軸に診療を設計できる点は、患者さんからの信頼にもつながります。

こうした変遷を経て、形成外科は「大病院での再建外科」から「地域で日常的に頼られる外来形成」へと裾野を広げてきました。外傷・瘢痕・眼瞼や鼻の機能障害といった「見た目と機能を同時に扱う」診療は、例えば皮膚科や整形外科ではカバーしきれない領域と言えるでしょう。そういった意味で、地域の中で確かな役割を担える形成外科のクリニック開業は、キャリア選択肢ともなっています。

形成外科の医院開業動向

●形成外科の特徴

形成外科のクリニックは、幅広い領域に対応できる柔軟さと、外来診療との相性の良さが特徴です。外来ベースで日帰り処置や小手術を行えるため、地域のなかで「まず相談できる専門科」としての立ち位置を築きやすい診療科と言えるでしょう。対象となる患者層も、小児のけがや先天異常のフォローから、高齢者の慢性創傷、働き盛り世代の眼瞼下垂まで多彩で、ライフステージを超えて関われる点は形成外科ならではです。

さらに、診療方針の設計自由度が高いのも魅力です。たとえば創傷ケアに特化する、手や顔の小外科を強調する、あるいは美容領域を一部取り入れるなど、医師自身の専門性や志向を開業に反映しやすい。これまでの経験を「地域のニーズに応じたかたち」で活かしていけることが、形成外科開業の大きな強みです。

2. 形成外科を標ぼうする診療所数の推移

厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」によると、形成外科を標ぼうする診療所数は 2,491施設、全国104,894施設のうち約2.4%を占めています。この推移を見ると、平成23(2011)年の1,808施設から令和5(2023)年までの12年間で683施設の増加となり、形成外科クリニックは着実な増加傾向にあることが分かります(下図参照)。

令和5(2023)年:形成外科診療所数の推移

背景には、保険診療の需要に加え、創傷管理や美容医療の一部を取り入れるハイブリッド型の開業が広がってきたことがあります。都市部を中心に「まず相談できる専門科」としての役割が強まり、開業数の伸びを後押ししていると考えられます。なお、全国47都道府県におけるクリニック数では、形成外科は39科目中22番目に多い状況です。また、全国47都道府県における人口10万人単位に対するクリニック数でも、形成外科は39科目中22番目に多い1.72施設となっております。

 

3.形成外科の医師数と推移

厚生労働省「令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国の医療施設に従事する医師数は327,444名、このうち形成外科医は3,207名で、全体の約1.0%を占めています。形成外科医の総数は平成24(2012)年時点の2,257名から10年間で950名増加しており、堅調な増加傾向が続いていることが分かります。

令和4(2022)年:形成外科医師数の推移

一方で、診療所に従事する形成外科医の数を見ると、平成24(2012)年の409名から令和4(2022)年の710名へと301名の増加となっています。耳鼻咽喉科や小児科と比べると診療所勤務医の割合はまだ小さいですが、開業件数の伸びと軌を一にして、診療所に従事する形成外科医も着実に増えてきていることが確認できます。背景には、創傷ケアや眼瞼下垂手術など外来完結型の診療需要に加え、自由診療を組み合わせた開業のかたちが広がり、勤務医から開業へとキャリアを移す選択肢が現実的になってきたことがあると考えられます。

4. 形成外科の開業資金

一般的な開業ケースを「テナント開業」と定義して計算した場合、下記のようになります。

●物件賃料:

形成外科クリニックとして最低限50~70坪程度必要を考えられ、一般診療のみとした場合、待合室や診察室、専門的な処置スペースを含めて60坪前後が必要と仮定した場合、坪単価を1万円とすると、60万円と試算出来ます。

●不動産関連費用:

敷金360~600万円、礼金60万円、仲介手数料60万円と試算。なお、敷金、礼金、仲介手数料は不動産仲介会社によって金額が異なるため、事前にご確認されることを推奨いたします。

●内装工事費用:

坪単価50~60万円とすると、面積60坪の場合は3,000~3,600万円と試算出来ます。

●医療機器:

レーザー系機器各種、皮膚診断システム、イオン導入機器、電子カルテ、その他(可動式診察台、無影灯、AED、滅菌機など)を合算すると約4,050万円程度と試算出来ます。

●什器備品:

200~300万円

●広告宣伝費(HP・看板・パンフレット):

700万円

●採用費(職員雇用):

20万円

●開業諸費用(医師会入会金):

100~200万円

●コンサルタント費用:

0~300万円

●運転資金:

1,500~2,000万円

泌尿器科:開業資金の目安(めやす)

なお、下記を行う場合は追加で費用が必要となります。

●二重まぶた手術機器セットで50~80万円程度、鼻整形の設備費用で300~500万円必要となると試算。

 

5. 形成外科の開業成功のポイント

①. 差別化

前述のとおり形成外科は、外傷や瘢痕、眼瞼下垂といった機能改善手術から、慢性創傷管理、皮膚・皮下腫瘍の切除、美容的な処置までを幅広くカバーする診療科です。開業にあたっては「何でも診る」ことが前提になりがちですが、その中であえて得意領域を明確に打ち出すことが、患者さんにとっての分かりやすい差別化につながります。

●診療スタイルと対象患者層の明確化:

たとえば「眼瞼下垂や逆さまつげなど眼周囲疾患に強みを持つ」、「キズ跡・熱傷の治療に長けている」、「糖尿病や高齢者の褥瘡を長期的にフォローする」など、地域ニーズと自らの専門性を組み合わせて診療テーマを設計してみましょう。単に美容外科との線引きを明確にするだけでなく、保険診療の中でどういった領域に軸足を置くかを伝えることで、「このクリニックなら相談できる」という理由が生まれます。

●専門性を伝える設備と導線設計:

処置・手術を想定する形成外科では、外来診療と小手術の両立を意識した空間設計が差別化に直結します。清潔区画と一般診療区画を明確に分けたり、創傷処置室や小手術室を備えることで、専門性の高さを患者さんに自然と伝えることができます。設備面でも、創傷ケア関連機器や各種レーザーを揃えることで、専門性と安心感を打ち出せます。

●相談しやすい雰囲気づくり:

形成外科の受診理由は「命に関わるほどではないけれど気になる」「どこに相談すればいいか分からない」といったケースが多いのが特徴です。待合室の雰囲気やスタッフの対応、診療案内の分かりやすさといった設計をしっかり行い、体験設計に力を入れましょう。

●デジタルツールを活用した接点設計:

美容的処置や創傷フォローなど、継続的な通院が前提となる診療も少なくありません。LINEやWeb予約、リマインド通知といった仕組みを取り入れることで、再診のきっかけを自然につくり出せます。とくに「気になる症状を持ちつつも受診を迷う」患者さんにとっては、情報発信やリマインドが来院を後押しするきっかけとなります。

耳鼻科の「花粉症」や皮膚科の「アトピー」のように、形成外科でも「キズ跡」「まぶたの悩み」「慢性創傷」など、身近で相談しやすいテーマを、ホームページや看板、パンフレット等の紙ツールでも分かりやすく伝えること・打ち出すことも、差別化です。こうしたテーマ設定を通じて、患者さんにとっての入り口を明確に示すことが、形成外科開業の成功を左右していきます。

②. 物件の選択肢

形成外科は外来処置や小手術を想定するため、物件選びでは「清潔区画と一般区画をどう分けられるか」が重要です。小手術室や創傷処置室を設けられる十分な面積を確保しつつ、受付から処置までの動線をスムーズに設計できるかがポイントになります。さらに、形成外科では外傷や美容的な処置などの生活の質に直結する診療が多いため、安心して来院できる環境をどう整えるかが、他科以上に開業の成否を左右するとお考えいただくと良いでしょう。

●アクセス性を意識した立地:

これは形成外科に限らずどの科目にも言えることですが、患者さんにとって「安心して足を運べる場所」であることが大切です。特に形成外科では、外傷など急な受診と、しみや瘢痕など計画的に通う受診が混在します。駅前や商業施設内といった利便性の高い立地はもちろん、車での来院を想定した駐車場の有無もチェックポイントになります。

●小手術を意識した空間設計:

形成外科では小手術や処置が日常的に行われるため、物件の間取りや奥行きが、清潔区域を確保しつつ効率的な動線を設計できるかが直結します。さらに術後のフォローを想定すると、処置室や待合室にリカバリースペースを確保できるかどうかも重要です。診察室・処置室・待合室の配置が適切にとれるかを内見時にしっかり確認しましょう。

●快適さとプライバシー確保:

見た目や外傷に関わる相談が多い形成外科では、待合室の快適性やプライバシーへの配慮が信頼感に直結します。たとえば、呼び出し方法や導線の工夫で「周囲の目が気にならない環境」を実現できるかどうか。美容領域を扱う場合は、カウンセリングスペースの独立性も検討ポイントとなります。

③. 集患マーケティング

形成外科の集患において特徴的なのは、「受診のきっかけが分かりにくい」という点かもしれません。患者さんは「できものができた。でも皮膚科?形成外科?どちらで受診すればよいのか分からない」「まぶたの下がりは美容外科に相談すべき?迷う…」といったように、どこに行けばよいのか判断しづらい状況で検索を始めます。だからこそ、「こういう症状なら形成外科に相談できます」と明確に打ち出すことが、最初の集患につながります。

●ホームページとGoogleマップの活用:

検索や地図アプリで「まず見つかること」が集患のスタートです。診療内容を分かりやすく掲げるのはもちろん、症例写真やQ&A形式で「形成外科で扱える症状」を示すことで、迷っている患者さんに来院の後押しを与えられます。Googleビジネスプロフィールの整備も基本中の基本です。

●検索対策(SEO・MEO)には症状ワードを:

「眼瞼下垂 保険」「キズ跡 治療」「褥瘡 クリニック」といった症状や悩みに直結するワードで検索されることが多いのが形成外科の特徴です。地域名と症状を掛け合わせたページ設計を行い、適切な情報が届く仕組みを開業初期から準備しておくことが、他科以上に重要になります。

●患者層ごとに異なる接点づくり:

子どもの外傷や先天異常のフォローには地域の小児科や学校との連携、働き盛り世代の眼瞼や瘢痕の悩みにはSNS発信やWeb広告、高齢者の褥瘡や創傷管理には訪問看護・内科との連携が効果的です。対象層ごとに接点を設計することで、迷いやすい症状を持つ患者さんにも届きやすくなります。

●「ここで診てもらって良かった」という診療体験:

形成外科は術後フォローや経過観察が前提となるため、再診を重ねる患者さんが多い診療科です。予約の利便性やフォローアップ体制のわかりやすさ、プライバシーを守る院内設計が、「安心して通える場所」としての信頼につながります。またこれはどの科にも言える事ですが、悩みを抱える患者さんにとって接遇は大きな要素になります。お互い気持ちの良い診療体験になるよう、接遇に力を入れましょう。

6. 形成外科の開業動向のまとめ

1975年から2023年にかけての形成外科クリニック数の推移を見ていきましょう。昭和50(1975)年時点で167施設だった形成外科は、平成17(2005)年には1,804施設と1,000件を大きく超え、その後も右肩上がりに増加しています。直近の令和5(2023)年には2,491施設となり、この半世紀で約15倍に拡大しています。

形成外科の長期推移(1975年~2023年) 医院継承メディカルプラス

形成外科クリニックは、「どの診療科に行けばよいのか迷う」ときの拠点としても機能しますので、クリニック数の増加は、その存在が地域への安心感をもたらす役割を担っている結果とも考えられます。また、日帰りの小手術や処置を数多く扱う診療科であるため、診療空間の設計や動線の工夫が日々の診療効率を左右します。術後の経過観察や創傷ケアなど継続的に通院するケースも多く、再診しやすい体制づくりやフォローアップの仕組みは、形成外科の開業運営において欠かせない視点です。

さらに近年は、既存のクリニックを引き継ぐ「継承開業」への注目も高まっています。地域に根ざした患者さんやスタッフとの関係をそのまま引き継げる点は、集患力をはじめ新規での立ち上げにはない強みです。医師の世代交代が進むなか、地域に必要とされる医療を途切れさせずに次代へつなぐ選択肢として、形成外科でもその価値が見直されています。

メディカルプラスでは、各診療科で継承開業のご支援を行っています。形成外科の譲渡案件は全体の科目比率から見ても数が限られており、情報を得るタイミングがとても重要です。また、当社ではホームページに公開せず、非公開のかたちで募集を行うケースもございます。そのため、あらかじめご連絡をいただければ、案件が出てきた際に優先的かつ迅速にご案内することが可能です。「どのような診療を展開したいか」「どの地域で役割を果たしたいか」といった想いを整理するところから、私たちは先生と共に歩んでまいります。形成外科の案件もご紹介可能ですので、関心をお持ちいただけましたら、どうぞお気軽にお問い合わせフォームまでご相談ください。

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