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連載コラム第6弾 医院譲渡の際の収入と費用

  • 医療継承コラム

当社仲介により埼玉県草加市の「柳島クリニック」を継承開業されました、吉川英志先生より寄稿いただきました連載コラム『クリニックを継承開業した経験から見えた医院継承とは?』より第6弾「医院譲渡の際の収入と費用」をお届いたします。ぜひ最後までご覧ください。

 

医院第三者継承の経済学 ~「カネ」にまつわる事~

私ごとですが先日娘(専攻は心理学)からLineがあり、ケインズの乗数理論が解らないとの内容でしたが、確かに最近のマクロ経済を見るに、ケインズは完全に前時代的、新自由主義も更に駄目でトリクルダウンも完全にメルトダウンしてしまいました。今回の東京五輪ならびに新型コロナ感染拡大がケインズ経済学と新自由主義のそれぞれにはらんだ危険性をそのまま具現化した表象のように思われます。

ところで経済には波がありますが、その視点で新型コロナ感染者数の全国的推移を見ますと、ほぼ正規分布ないし二項分布の波です。絶対数はさておいて、この綺麗な波は緊急事態宣言やワクチンなどその場しのぎの対策の結果ではなく、感染・免疫界では自然の免疫現象、「神の見えざる手」による調和、経済で言えばアダムスミスの原始世界に遡ります。初期の波(波に値しない)には右に遷延する傾向(べき分布)があり、これがスーパースプレッダーやある空間(DP号)の存在、「密」やクラスター対策の根拠となっておりましたが、確かに初期の下流感染、死者数と密接に関わったと思います。しかし真の感染爆発では「べき分布」は誤差範囲で今後は綺麗なベルカーブが想定され、SARSの感染様式とは明らかに異なり流行性感冒(Flu)の感染様式に他なりません。波を見ているといつしか「ヒト」ひとりがそこに埋もれてしまいますが、そこには個々の感染経緯やバックグラウンドがあり、全数調査が無意味とは決して断言しませんし、マクロ経済理論も同様で、個々のミクロ経済からの修正を余儀なくされてきた歴史があります。そんな思いを馳せながら、今回のコラムは医院第三者継承における「カネ」、すなわち経済の問題を扱います。前回の「ヒト」に続き、売り手側の「カネ」の動きを、経済理論と現実を行き来しつつ、少々幅広くおさらいして参ります。

早速ですが、医院第三者継承において売り手側に関わる「カネ」の動きは簡単で、基本、閉院費用は掛かりませんので、継承仲介業者への仲介手数料の支出と譲渡価額の収入、それにリタイア後の生活費に単純化されます。買い手側もほぼ同様で、仲介手数料、譲渡価額、諸々の手数料支払とライフステージへの位置付けで(後のコラムで詳述予定)、将に医師の家計にみるミクロ経済そのものに反映される訳です。

医院第三者継承時の仲介手数料

まず、仲介業者への仲介手数料ですが、これは単純明快で、各社料金体系を明示しておりますので前もって確認ください。
基本は手付金(着手金)の有無、仲介手数料の算出法で、弁護士費用同様、手付金+成功報酬というのが一般的です。手付金は更に最初からのもの(提携仲介契約)や、さらに実質手付金なしで良心的な場合、例えば基本合意契約成立時(ある意味成功報酬)など、支払時期や金額も様々で数十万円が基本です。加えて、最終的な譲渡契約締結後にいわゆる仲介手数料が発生しますが、こちらは成功報酬ということになります。これにも各社料金体系があり、一律数百万円もあれば、譲渡価額による変動制、最低金額などを提示している場合があり、早い段階で確認しておくことが望ましいです。相場や価値観で一律に論じられませんが、自身の感覚では、売上5000万円、利益1000万円(事業譲渡額○○の算出は後述、不動産無し)の医院継承の仲介手数料が500万円であれば何となく高額と感じますが、時々の相場、状況でご判断ください。

医院事業の譲渡価額

 資産

さて、個人事業としての医院の営業権や医療法人の出資持分譲渡において、譲渡価額の算出には各社それぞれに根拠があります。基本的には譲渡価額は資産の時価と営業権の足し算になります(時価純資産価額法)。ここで、「資産」に関しましては明瞭で、個人事業の場合、内装、設備・機器、什器・備品、更には残存の診療材料などを含み、医療法人の所有資産とは、上記資産とともに保険積立金、有価証券、不動産などを含め、含み損益を修正した純資産を示します。医療法人の場合は職員もそのまま引き継ぎますので、退職引当金や未払い賞与などの簿外債務がある場合は債務へ計上します。従いまして、医療法人の継承は役員が交替するイメージとなり、資産はそのまま継承されます。

 営業権

次に、「営業権」ですが、医院の経営内容が直接反映される一方で、収益の将来性、立地の優位性、信用など数字に表れてこない付加価値を可視化して金額として表すいわば「のれん代」に相当するものになります。計算方法は単純化されている場合が多く、院長の所得すなわち「営業利益」の何年分とうアプローチが主体ですが、各仲介業者間で個性があり、企業価値評価ガイドライン(日本公認会計士協会)に示されるように、ネットアセット(純資産による評価が該当)、収益・配当など各種の視点からのインカム(超過収益法、企業価値差額法[1])、ならびにマーケット(市場、競合、株取引)アプローチ(企業価値差額法[2]・類似業種比準法)など、直接医院経営とは結び付かないものの、「のれん代」を考える際に重要になる示唆がありますので、ぜひ参考にして頂くと良いです。さて、この「営業利益」は、貸借対照表に示される資産と負債の単純な差額による杓子定規なキャッシュフローのみならず、適正な修正が加えられることで、付加価値を含めた「のれん代」となり、更には、最終的に買い手側との需給による市場原理や交渉を経て、最終的な価額が決定します。

では営業権ないしのれん代はどうすれば高額になるかですが、医院譲渡の際は以下に列挙します自院の優位性をぜひ仲介業者にアピールしてください。
暖簾は外向きに掲げます。銀座の高級料亭の暖簾をくぐって、高額な支払をさせたお客さんに、果たして満足して帰って頂けるか、ぼったくりという評価を頂くか、例えますとそういうことで、内側から見る暖簾は殺風景ですし、存在に気づいていない事すらありますので、客観的視点からの注意が必要です。基本は先のコラムに書きました医院運営の三本柱、財務・労務・保健が如何に強固であるかは最低限必要です。加えて、患者力、診断・検査など技術、ノウハウや知的資産、土地・立地、病診連携・ネットワークなどが該当します。

財務はさておき、如何に優秀な職員を有するか、これは笑顔、技術、コスパのみならず、精神・身体の健康、自主性、協調性などを含みます。
保健ではカルテ記載・記録の充実、混合診療や代理診察などの不正の有無、長期処方・検査の頻度などです。
患者力とは、数は勿論質、民度、保健所・厚生局への安易な通報や悪いクチコミ、服薬アドヒアランスなど個々の問題もあれば患者数の季節変動、1日の中での波、自費・保険診療の割合などマクロ的な捉え方も重要です。
診療側は診立て、検査・診断、治療の力量から派生する評判・ブランド力、更に競合のない立地、駅前など将来的な競合出現や同科林立の可能性、逆紹介や救急対応などの病診連携と医療ネットワーク、加えて最も重要な顧客データ(カルテ)数で、これらは医院継承において買い手側から良く見えない付加価値ですが、プラスにもマイナスにも将に「のれん代」となり得ます。

譲渡価額のすり合わせ

以上は、経営コンサルタントや各仲介会社のガイドに詳しく載っておりますのでご覧頂ければ良いのですが、最終的には譲渡側と譲受側との価格のすり合わせが必要です。そこには売り買いの基本的な市場原理もあれば、人と人との私情もある訳です。「カネ」のことや私情は中々直接的に話し合いが難しいもので、ここは仲介業者やアドバイザー個々の力量が最も発揮されるところのように思います。まとまりかけたお話が一方的な価額調整でご破算になった話も耳にしております。

ところで譲渡価額のイメージとして億単位の継承案件はどう感じますでしょう。無論、絶対的数字がある訳でなく内容次第ですが、M&Aと医院継承のニュアンスの差こそあれ、本コラムでは一貫して後者について述べて参りますため、少し高額な感じを受けざるを得ません。特に医療法人継承の場合などには継承価額を更に抑えるべく様々なテクニックがありますので、そこら辺りも専門の知識豊富なアドバイザーにご相談ください。継承価額は先の通り算出され、のれん代が適正な価格であるかなどは見えにくい部分が多いですが、現実には暖簾の中が良く見えてしまう場合もありますし、それがマイナスであったり、継承の更に先にあるもの、すなわち継承までのタイムリミットや市場の活気などの要素で価額が抑えられることがあります。現場でしばしば耳にする「足元を見られる」という文言です。そこら辺りも親身になって協力頂ける仲介業者・アドバイザーに相談され、最後は譲渡、譲受側双方が、メディカルプラスさんの提唱するWin-Win の形で金額的にも納得されることが望まれます。

医院継承(譲渡)後の人生設計

医師のリタイア後ですが、開業医は医院継承後どういった生活になりましょうか。十分な金銭的シュミレーションをもって早期にリタイアでき、悠々自適な私生活が送れれば理想ですが、健康上の問題、老後の金銭的不安は開業医をもってしても無い訳ではありません。すぐに白衣やステートを置くという必要も無く、通勤や繁忙による身体的・精神的負荷から解放されて、ゆったり勤務という選択肢はありますし、今までの経験を生かして、あるいは趣味や別の才能の開花などに託す人生設計も面白くはないでしょうか。

手始めに健診バイト、遠隔医療、いずれも日時、時間的な融通が利きますので、特に後者は遠隔医療の医師としてパートタイムで働くことで、医療の知識も利用でき報酬も良いようです。必要なものは、電カル程度のパソコン操作とネット接続だけです。自宅からも遠隔地からでもノートパソコンで仕事ができます。また教育、”see one, do one, teach one “という言葉の通り、退職した医師が最後に教えるということ、お弟子さん、学部・院レベルまでは困難でしょうが、看護師や医療秘書のプログラムに貢献するという選択肢はあります。

昨今の先の見えない医療界で、医院経営に直に関わってきた開業医の感性と先見性は重要です。医療コンサルティングは、マッキンゼー初め「ビッグ3」のような会社経営のプロである必要は無く、例えば政府機関、法律家・鑑定人、バイオテック・製薬会社など、政策や製品への責任に関する洞察を得るために必要とされます。重要なのは、幅広いコネの活用でしょうか。近い所で、ヘルスケアアドミニストレーターの必要性も高まっており、一般的には施設管理とスタッフの監督を行い、管理者は組織の規則や規定を策定、施行します。今後、再生医療分野、多国籍製薬企業、医療機器メーカーでの需要は高まるでしょうが、今までの豊富な医療の知識が役立つ一方、医療管理は臨床現場と異なり、MBAやMHAなどの学位を持つべくハードルは高いかも知れません。

最後に、以前ご紹介しました医師免許をお持ちの作家もおられましたが、健康関連の雑誌・ウェブサイトなど、より一般の出版物への執筆や編集に興味をお持ちの先生方は、高齢になっての執筆や編集は、幅広い経験と視野からこの上ない解放感を感じうることをご存知でしょう。そういった活動もぜひ視野においてください。
以上、海外移住などの可能性も含めた観点から蛇足ではありますが、開業医のリタイア後への可能性について述べさせて頂きました。何か示唆するものが得られるならこの上なき喜びであります。

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