医療法人の運営ルールとは?組織運営と実務の基礎知識

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こんにちは。医院継承・クリニックM&A支援のメディカルプラスです。私共が日頃クリニックの先生とお話しする中で、「医療法人化したら、個人開業の時とは実務がかなり違っていました」、また「運営する上でどんな報告が必要なのかを把握しておかないといけないですね」といったような声が交わされることがあります。法人格を持つと、「定款に基づいた運営」「社員総会や理事会の開催」「監査体制の整備」などが義務として課されますが、しかし診療に追われる日常の中では、つい先送りにしてしまいがちな部分かもしれません。
本記事では、医療法人の運営ルールと実務の概要を整理して解説します。制度の仕組みを理解することはもちろん大切ですが、将来の医院継承や法人M&Aの場面で「きちんと運営されてきたか」が問われることも少なくありません。単なる事務作業ではなく、信頼性を支える大切な基盤として押さえていただければ幸いです。なお、医療法人そのものの仕組みやメリット・デメリットについては、医療法人とは?仕組みやメリット・デメリット(基礎知識編)をご参照ください。
医療法人の運営の基本
まず大前提として医療法人は、医師個人が好きなように運営することはできません。定款と呼ばれる運営ルールを定め、社員総会での決議をもとに運営していく仕組みになっています。そのうえで押さえておきたいのは、定款に基づいて運営される非営利法人であるという点です。定款は、いわば法人の「憲法」にあたる存在で、社員総会や理事会の位置づけ、役員の任期、監査体制などが明文化されています(医療法第46条)。個人開業とは異なり、この定款に沿った形での運営が義務付けられます。
さらにもう一つの大前提は、非営利性と公益性です。医療法人は地域医療の担い手として認可されるため、余剰金の配当は法律で禁止されています(医療法第54条)。利益は法人内に留保され、医療設備の整備や人材育成、地域医療への還元に充てられる仕組みになっています。実際に法人化に際してお話する先生の中には、「利益の使い方には制約があるのですね」と初めて気付かれる方も少なくありません。しかし、この非営利性こそが医療法人の信頼性であって、「適切に運営されてきた法人」と評価されます。その運営実績は、将来的に経営を引き継ぐ場面、例えば第三者への承継やM&Aを検討するときにも、大きな評価材料になります。
【出典】
*医療法(令和7年6月6日 施行)
第46条(定款に関する規定)
第54条(配当禁止・非営利性)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
組織運営の仕組み
医療法人を運営するうえでは、社員総会・理事会・監事の3つが大きな役割を担います(医療法第46条の7~9)。個人開業と異なり、組織としての意思決定やチェック体制を整えることが求められます。それぞれの機関には明確な役割があり、どれも欠かすことはできません。ここからは、医療法人における主要な機関ごとの役割を整理します。
社員総会の役割
「社員総会」は、法人の最高意思決定機関です。定款変更、理事や監事の選任、事業報告の承認といった重要な決定を行います(医療法第46条の9)。例えば議事録の不備や開催記録の欠如は、医院継承や法人M&Aの場面で「運営体制が不十分」と判断されるリスクにもつながりますので、しっかりとした運営が求められます。
理事会の役割
次に「理事会」です。これは日常的な業務執行を決定する機関で、理事長の選出や監督、各理事の職務執行の確認が行われます(医療法第46条の7)。医療法人化を検討中の先生からは「理事会では具体的に何を決めるものか」といったご質問を伺うことがありますが、例えば設備投資や新規事業の開始には理事会の承認が必要です。さらに金融機関の融資審査でも理事会の承認書類が求められることがあり、対外的な信用にも直結します。
監事の役割
「監事」は、法人の業務や会計を監査するチェック機関です(医療法第52条の3)。法令や定款に沿った運営が行われているかを確認し、法人の透明性を保つ役割を担います。そのため独立性と機能性のある監査体制を整えることが、法人全体の信頼につながります。
【出典】
*医療法(令和7年6月6日 施行)
第46条の7(理事の選任・職務執行)
第46条の9(社員総会)
第52条の3(監事による監査)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
【参考文献】
*厚生労働省:医療法人制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
運営に必要な主な実務
次に、実務面に目を向けてみましょう。医療法人を続けていくためには、毎年あるいは定期的にこなさなければならない手続きがあります。これは日々の医療に集中しているうちに矢のごとく日々が過ぎ去り、あっという間に期日が近づいてしまったという話が、よくきかれます。しかしどれも法律で義務付けられていますので事前のスケジューリングが大切です。ここでは主な実務の概要を整理しましたので、ご参考ください。
事業報告・決算報告
法人は毎事業年度終了後に、事業報告書と決算報告書を作成し、社員総会で承認を得る義務があります(医療法第52条の2)。決算書の作成自体は税理士に依頼するのが一般的ですが、それだけでは不十分です。社員総会での承認と、その記録である議事録を残して初めて、法人としての責任を果たしたことになります。こうした手続きが欠けていると、行政から指摘を受けることもあります。
財産目録の作成
毎年、法人の財産状況を一覧化した財産目録を作成し、事業報告書や決算書とあわせて所轄庁(都道府県知事)へ提出することが医療法で義務付けられています(医療法第52条の2)。日常の診療を優先することで「多忙でつい作成や提出を後回しにしてしまいそうになる」といったお話もありますが、財産目録は法人の透明性を示す基本資料です。将来的に医院継承やクリニックM&Aを検討する際にも必ずチェックされる項目であり、提出漏れや不備は信頼性を損ねる要因になります。日常業務の中で習慣化し、確実に対応しておくことが大切です。
役員改選登記
理事・監事などの役員は、原則2年ごとに改選登記を行う義務があり、任期満了のたびに登記内容を更新します(医療法第46条の7〜9)。「役員の顔ぶれは変わらないから大丈夫だろう」と考えて登記を後回しにし更新を忘れると、行政から指導を受けることになってしまいます。さらに、登記が古いままだと金融機関との取引や契約手続きで「法人情報が最新でない」と見なされ、スムーズに進まないリスクも生じます。登記事項の不備は行政手続きや金融取引など、実務のあらゆる場面で社会的信頼を損なう要因となり得ますので、確実にスケジュール管理を行い、任期ごとに改選登記を済ませておくことが、法人運営の安定にもつながります。
議事録の作成(社員総会・理事会)
社員総会や理事会を開催した際には、議事録を作成し、適切に保管することが義務付けられています(医療法第52条の2)。議事録には、開催日や出席者、議題、決議事項などを明確に記録しなければなりません。忙しい中では「とりあえずメモで残そう」と簡略化してしまいたくなるかもしれませんが、議事録が形式的だったり、そもそも保管されていなかったりすると、法人の意思決定プロセスが不透明に見えてしまいます。もし将来的に医院継承やクリニックM&Aを検討する場面に直面すれば「記録がきちんと残されているか」が信頼性の判断材料となります。議事録は単なる事務作業ではなく、法人運営の履歴を示す証拠でもありますので、形式を整えておくことが大切です。
監事による監査
監事は毎年、業務や会計について監査報告書を作成し、社員総会に提出する義務があります(医療法第52条の3)。実効性を欠いた監査は問題視されますので、独立性と機能性のある監査体制を整え、定期的に実施していくことが、法人全体の信頼を高めることにつながります。
【出典】
*医療法(令和7年6月6日 施行)
第52条の2(事業報告書・計算書類・財産目録)
第52条の3(監事による監査)
第46条の7〜9(役員任期・改選登記)
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
【参考文献】
*厚生労働省:医療法人制度の概要
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
*厚生労働省:医療法人運営管理指導要綱[PDF形式]
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000548754.pdf
まとめ:医療法人を安心して維持するために
ここまで整理してきたように、医療法人の運営には定款に基づいた組織体制と、毎年・定期的に行うべき実務が必要になります。診療に追われる日常の中では形式的に済ませてしまいがちな部分ですが、一つひとつの手続きが法人の信頼性を支える基盤になります。
制度の理解と実務の確実な履行は、行政からの指導を避けるだけでなく、法人としての信用を高め、安心して経営を続けていくためにも欠かせません。さらに医療法人は法律上「非営利性と公益性」が求められており、地域医療の担い手として公益的な役割を果たすことが期待されています。経営や節税といった観点にとどまらず、地域や社会に貢献する姿勢が重要です。こうした運営の積み重ねは、結果的に将来の選択肢を広げることにもつながります。例えば経営を引き継ぐ必要が生じたとき、きちんとした運営実績は「適切に運営されてきた法人」として評価される要素になります。
なお、医療法人そのものの仕組みや設立メリット・デメリットについては、医療法人とは?仕組みやメリット・デメリット(基礎知識編)をご参照ください。
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この記事の著者

豊島 太郎(とよしま たろう)
株式会社メディカルプラス コンサルティング営業本部 医院継承事業部 リーダー
豊富な業界経験に加え二級建築士の資格を持ち、クリニックの内装やインテリア関連の知識にも明るい多才なアドバイザー。建設不動産関連業務を約7年経験、その中で人それぞれの人生とその大切さについて深く考える出来事を多く経験。メディカルプラス参加後は5年間で約40件以上の継承に立ち会い、医師の人生のターニングポイントに立ち会うやりがいを原動力にサポートを行う。穏やかな物腰と優れた傾聴力に社内外から定評あり。
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