MS法人とは?医療法人との違いと取引時の注意点

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こんにちは。医院継承・クリニックM&A支援のメディカルプラスです。

院長先生や開業をご検討中の先生方とお話しすると、よく出てくるのが次のようなご質問です。

「MS法人(メディカルサービス法人)って、どういう法人ですか?」
「医療法人とどう違うんですか?」
「株式会社とも違うんですか?」

名前は耳にしていてもMS法人は経営寄りの話題で、日常診療ではあまり触れる機会がありません。ところが医院継承やM&Aの場面ではよく登場する存在です。建物や医療機器がMS法人名義になっていたり、取引条件によって継承評価が変わったりするため、前知識なしに進めるとトラブルにつながることもあります。本記事では、まずMS法人とは何かを整理し、医療法人や株式会社との違いを解説します。そのうえで、取引にともなうリスクや報告義務について、2025年8月時点の最新情報をまとめました。クリニックM&Aや医院承継を検討されている先生に、実務に役立つ内容をお届けできれば幸いです。

MS法人(メディカルサービス法人)とは?

MS法人(メディカルサービス法人)は、医療法人が診療という本業を担う一方で、建物や医療機器の管理や物販など診療以外の営利部分を引き受ける法人です。なぜMS法人が必要になるかというと、医療法人は法律上「非営利性」が強く求められ、診療報酬以外の営利活動に厳しい制限があるからです。そのため、建物や機器の所有・貸与、物品の仕入れや販売などを、MS法人に委ねる仕組みが用いられます。自分たちでMS法人を設立する場合もあれば、既存の法人に委託する場合もあります。

具体的な業務としては、会計・給食業務・清掃・売店運営・医療機器や備品の管理・賃貸・保険請求事務・不動産管理などが挙げられます。つまり、診療そのものではなく、「診療を支える営利部分」を一手に担うのがMS法人の役割です。

MS法人の業務の具体例会計業務
給食業務の請負
清掃の請負
売店業務
医療機器の管理・販売・賃貸
備品類の管理・販売・賃貸
保険請求事務・医療事務・経理事務の請負
不動産管理

実際に「MS法人を設立しようか」という話が出るのは、医療法人の枠組みではできないことを補う必要が出たときです。医院資産を法人で管理したいとき、利益や資産を分散して税務上の工夫をしたいとき、診療以外の事業を展開したいときに設立が検討されます。この仕組みを正しく活用すれば、経営効率化や節税のメリットがありますが、一方で誤った取引や不透明な関与は「利益移転」と見なされるリスクもあります。

次章では、医療法人や株式会社と比較しながらMS法人の立ち位置をさらに整理していきましょう。

MS法人と医療法人との違い

MS法人は医療法人を支えるサポート役として設立されますが、その性格は大きく異なります。ではまず医療法人との違いを整理し、次に株式会社との関係性を見ていきましょう。

MS法人と医療法人の違い

前章でも触れましたが、医療法人は「非営利法人」です。医療という公共性の高い事業を担うため、収益が出ても出資者や社員に配当することはなく、剰余金は診療活動の充実や地域医療への還元に使われる仕組みです。また、活動範囲も診療報酬を基盤とした医療サービスに限定されています。

一方、MS法人は「営利法人」です。株式会社や合同会社と同様に利益を目的とし、得られた収益は株主や社員に分配することが可能です。担う業務も診療そのものではなく、建物や機器の管理、物販、事務の請負といった周辺業務に広がります。つまり両者は 「診療を担う非営利主体」「周辺業務を担う営利法人」 という対照的な立場にあります。協力体制を築くことで大きな社会貢献に繋げることができると同時に、この線引きを理解せずに取引するとリスクを抱えることになります。リスクについては本記事の後半で解説いたします。

一般社団法人のクリニック開設方法 ~注意点と医療法人との違い~

いわゆる「広域医療法人」と医療法人M&Aについて

MS法人と株式会社の違い

ここで出るのが、「MS法人が営利法人であれば、株式会社とどう異なるのか」という疑問かと思います。結論から言えば、登記上はまったく同じです。「MS法人」という特別な法人区分があるわけではなく、実態は通常の株式会社や合同会社として設立されます。違いがあるのは、「どういう目的で設立されどんな役割を果たしているか」という、共通認識です。一般の株式会社は市場で幅広い事業を展開しますが、「MS法人と呼ばれる会社は、医療法人の周辺業務を担うことを目的に設立されていて、医療法人をサポートするために作られた株式会社」と認識されています。医療業界での共通理解として「MS法人」という呼び方が定着しているのです。

では次に、MS法人との取引で注意すべき点を見ていきましょう。

医療法人とMS法人の取引で注意すべきポイント

医療法人とMS法人の取引は、適正さを欠くと「利益移転」とみなされ、行政から厳しくチェックされます。これは前述のとおり、医療法人に強く求められる「非営利性」を守るためです。厚生労働省もこの観点から複数の通知を出しており、その代表例が平成24年3月の「医政総発0330号」です。この通知では、医療法人の開設者や管理者は、原則として利害関係にある営利法人(MS法人を含む)の役員や社員を兼務できないと定めています。もっとも、注意すべきポイントは兼務の問題に限りません。通知の背景には、「剰余金配当禁止」という医療法の根本原則があるため、この通知を実務の現場に当てはめて整理すると注意すべき点は大きく3つです。

注意点➀「利益移転のリスク」

まず注意すべきは、利益移転のリスクです。家賃やリース料が相場を大きく上回るような契約は、行政から「医療法人の利益をMS法人に移しているのではないか」と見なされる可能性があります。実際に承継やM&Aの場面では、こうした契約条件が不透明だと、法人評価や取引スキームに大きな影響を与えることがあります。したがって「市場相場と比べて適正か」を常に確認しておくことが不可欠です。

注意点➁「剰余金配当禁止との関係」

次に関わるのが、剰余金配当禁止との関係です。医療法人は非営利法人であるため、出資者に利益を配当することは認められていません。しかし、MS法人を介した過度な利益移転は「迂回した配当」と解釈されるおそれがあります。これは承継やM&Aの際に大きなリスク評価につながり、場合によっては取引価格やスキームそのものに影響することもあります。

注意点➂「役員兼務の問題」

0330号が直接規定するのがこの点で、役員兼務の問題にも注意が必要です。医療法人とMS法人で同じ人物が役員を兼ねていると、契約条件の公正さが損なわれるリスクがあるため、行政は慎重に見ています。実務上は「役員を兼務しない」「兼務する場合は利益相反を避ける体制を整える」といった工夫が必要です。こうした点はすべて、「医療法人の非営利性を守る」という原則から導かれています。承継やM&Aの現場では、契約が適正かどうか、行政の視点でチェックすることが重要です。表面的に問題なさそうでも、後で「これは利益移転では?」と指摘されると修正は困難を極めます。だからこそ、取引の段階から専門家と一緒に整えておくことが欠かせないとお考えください。

※参照:厚生労働省通知「医政総発0330第4号」
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/dl/midashi_shinkyu120330b.pdf

取引に関する報告義務と実務対応

ここまで、医療法人とMS法人の取引におけるリスク(利益移転・剰余金配当禁止・役員兼務)を見てきましたが、実はもう一つ大事な視点があります。それが 「一定規模以上の取引は、所轄庁に報告しなければならない」という報告義務です。

医療法人とMS法人の取引は「非営利性を守るために透明化が必要」だという考えから、厚生労働省は平成28年に新たなルールを設けました(医政発0420号)。この通知によって、一定規模以上の取引は都道府県への報告が義務づけられています。具体的には、医療法人の役員やその親族が関係するMS法人との取引で、年間1,000万円以上かつ法人全体の収益または費用の10%以上にあたる場合には、契約内容や金額を年度末から3か月以内に届け出なければならない、という義務があります。

現場では「これはただの身内取引だから大丈夫だろう」と軽く考えられがちですが、継承やM&Aの調査(DD:デューデリジェンス)では必ず確認されるポイントです。届出を怠っていると「法令遵守が甘い」と見られ、交渉の足を引っ張ることすらあります。実務上の対応としては、取引額が大きくなりそうな段階で「報告対象かどうか」を早めに仕分けしておくこと。そして契約書や請求書、入出金記録を整理し、年度末に慌てない体制を作っておくことが大切です。この報告義務は「単なる事務作業」ではなく、継承やM&Aをスムーズに進めるための安心材料になります。後から指摘されて修正するのは非常に大変ですから、最初から意識をもって整えておくことが最も賢明な対応だといえるでしょう。

※参照:厚生労働省通知「医政総発0420第7号」4ページ5行目
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000080739_9.pdf

まとめ

いかがでしたでしょうか。MS法人(メディカルサービス法人)は、医療法人が診療に専念するために周辺業務を担う営利法人です。

一見シンプルな仕組みに見えますが、実務では 「非営利性の確保」「利益移転リスク」「役員兼務の制約」 など注意すべきポイントが多く、承継やM&Aの現場で見落とされがちなリスク要因になります。さらに、一定規模以上の取引には行政への報告義務も課されており、契約内容やスキームが不透明だと、後から行政に指摘を受けることもあります。MS法人をどう位置づけ、医療法人とどのように関係を持たせるかは、継承やM&Aの成否を左右する重要事項となります。医院継承やクリニックM&Aを検討する際には、制度の背景や行政の視点を事前に理解し、専門家と一緒に準備を進めることで、安全で確実な継承を実現していただければと思います。

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