クリニック親子間継承の現状と課題 ~子どもが継がない時代の背景とは~

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こんにちは。医院継承・クリニックM&A仲介支援のメディカルプラスです。過去記事「クリニックを誰にどう引き継ぐか悩んだら」では継承の選択肢を、そしてもし親子間継承を視野に入れられている先生にお役立ていただけるよう「親子で医院を継ぐ時に大切なこと」では、引き継ぐ際に意識したい考え方を整理しご紹介しました。
一方で、そもそも「子どもが医師にならない」「医師でも継がない」といったご相談も増えています。この背景には、晩婚化・出産年齢の上昇・キャリア志向の多様化といった社会的変化が影響しており、親子間継承は、意志の問題だけではなく「時代構造の問題」として捉える必要が出てきています。つまり、これは先生の個人努力では解決しづらい現象になっています。
そこで本記事では、親子間継承が難しくなっている現状とその背景をデータも交えて解説し、地域医療を次世代へつなぐための新しい選択肢についてもご紹介します。ぜひご参考ください。
医院の親子間継承が難しくなっている現状
近年、医院継承のご相談をいただく中で、「実は子どもも医師だが継がない」「医師にはなったが別の道を歩んでいる」といったお話を伺うことが増えています。私たちが先生方からお話をお聞きするなかでも、親子間での継承が思うように進まないケースは決して少なくありません。
親子間継承は、理念や地域への思いを自然に受け継げる理想的な形である一方で、現実には実現が難しくなっている状況が見えてきます。その理由のひとつが、医師のキャリア選択の多様化です。医療法人やグループ勤務、専門医としての大学残留、あるいは企業医療や海外勤務など、かつてより幅広い選択肢が広がっています。若先生がご自身の理想とする医療の形を追求する中で、実家を継ぐ以外の道を自然に検討されるケースも増えています。また、親世代の先生方が長年にわたって築かれた診療スタイルや患者さんとの信頼関係の深さが、若先生にとって心理的なプレッシャーとなることもあります。「同じように信頼を得られるだろうか」という思いが、結果として「継がない」という選択につながる場合もあります。
さらに晩婚化や出産年齢の上昇により、子世代が開業や継承を考える時期と、親世代が引退を意識する時期が重なりにくくなっていることも見逃せません。こうした傾向は、親子間の意志や関係性の問題というよりも、時代構造の変化がもたらした現象といえるでしょう。次章よりこのクローズアップされることの少ない「年齢」という視点から、親子間継承の難しさを整理してみたいと思います。
背景にある社会構造の変化
では、なぜ親子間継承が成立しにくいのかについて、クローズアップされることの少ない「年齢」という観点から、親子承継の難しさをお伝えいたします。
2-1. 晩婚化により、親子の年齢差が広がった
近年、日本では晩婚化が進んでいます。総務省や厚生労働省の統計でも、初婚年齢は年々上昇しており、親世代が結婚するタイミングそのものが昔と比べて後ろ倒しになっています。この「結婚時期の後ろ倒し」という一点だけでも、親と子の年齢差は自然と大きくなります。このベースとなる年齢差の広がりが、親子間継承の難易度を押し上げている前提条件になっているとも言えるでしょう。

*参考:厚生労働省「人口動態統計」初婚年齢データ
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411844
2-2. 第一子の出産年齢上昇と、継承タイミングの「ずれ」
晩婚化の流れと連動するように、第一子を授かる年齢自体も上昇しています。厚生労働省「人口動態統計」でも、第一子出産時の平均年齢は30歳前半が一般化しつつあります。仮に第一子が成長し、さらにその方が医師を選択し40代になった頃には、お父様の年齢は70歳を超えている計算になります。頭脳明晰・体力自慢の方であっても、70歳前後になると体力・気力・健康面等の管理が必要になることが多く、開業当時の体力を維持したまま現役で頑張れる開業医は多くありません。親世代としては「そろそろ次に渡したい」と感じる年代である一方、子世代はまだキャリアの優先順位が多様で、必ずしも開業や継承にフォーカスが向いているとは限らない状況であることも考えられ、継ぎたいけれど継ぐ準備がまだない、という「ずれ」が発生します。

これまでを踏まえると、院長が50〜60代になった頃、「昔より疲れやすくなった」と自覚したことをきっかけにクリニックの今後を考え始めても、そのタイミングでお子様はまだ若く、継承に積極的ではないケースも珍しくありません。弊社でも「本当は子どもに継いでほしかったが、難しそうだから早めに廃院する」というご判断に至った例も伺ったことがありますし、その後「地域のために廃院はやめる。第三者で希望者がいれば譲りたい」というご決断をされた先生からのご相談も多く寄せられます。年齢構造の変化によって、親子間継承が「気持ちの問題」「努力の不足」ではなく、現象として成立しにくい時代、そう感じる場面が増えています。今後さらに晩婚化が進めば、この傾向はより強まる可能性があるとも考えております。
*参考資料:厚生労働省/2023年の厚労省の人口動態統計「出生順位別にみた年次別父・母の平均年齢」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411609
このように、親子間でのクリニック継承が難しくなっている背景には、先生やご家族の意志とは関係のない「社会の変化による時間のずれ」も関係しています。ここまで来ると、努力や気持ちだけでは整理できない部分も出てきますので、一旦原点に立ち返って考えてみていただきたいのは、そもそも先生が親子間継承を望む目的は何か?という点です。「子が継がない」状況がある場合、ここからは親子間継承を望む気持ちの根っこがどこにあるのか、一度整理してみることをおすすめいたします。
クリニックを親子間継承したい目的は?
ここまで見てきたとおり「年齢」という一つの視点だけでも、親子間継承が難しくなりやすい時代背景があります。加えて、文部科学省が公表している「令和5年度 医学部(医学科)入学者選抜における合格状況」でも、国立・公立・私立それぞれで合格率には大きな差が見られ、医師免許取得そのもののハードルも高まっています。また、昨今は職業選択が多様化し、医師のご家庭であっても、お子さまが医学部を選択しないケースや、生涯勤務医を望まれるケースも珍しくなくなってきました。「親子間継承ありき」で考え続けること自体が、以前より難しい環境にあります。
そこで一度、原点に立ち返ります。
そもそも、親子間継承を望む目的は何でしょうか。
「親子間で継承したい」と考える理由はご家庭ごとに異なりますが、大きく分けると以下の観点が含まれることが多いと感じています。
- 蓄積してきた財産を子世代に残したい
- 自分が長年つくってきた医療の価値観や理念をつなぎたい
- 自分のよく知る身近な人に地域医療を託したい
このように、まずは親子間継承で「何を一番大切にしたいのか」と気持ちに向き合い言語化することをおすすめいたします。ここが整理されているだけで、後の選択判断の迷いが大きく減っていきますので、ぜひ時間を取って考えてみてください。
そして親子間継承を望む目的の中に、もし「創業者利益を確保し、財産として子へ引き継ぐ」という視点が含まれる場合は、第三者への継承(クリニックM&A)も、選択肢として十分に合理的に検討できます。経営権を第三者へ譲渡する場合でも、退職金等の形で利益を回収することは可能です。そして「財産の継承」と「事業の継承」は、必ずしも同じではありません。事業は第三者に委ね、蓄えてきた財産は別の形で子へ残すという分離の発想は自然な選択であり、「親子で引き継ぐ」以外の形でも価値を未来へ渡す方法は十分に存在します。親子間継承を願う想いを尊重しながらも、親子間継承一択でなく、複数の出口を早めに持っておくことが、これからの時代の開業医にとって、現実的なリスクコントロールになると考えられます。
親子間の医院継承と第三者医院継承の比較
親子間医院継承と第三者医院継承には、それぞれ異なる特徴とメリットがあります。どちらが優れているか、という話はなく、「どの価値を未来に残したいのか」によって最適な選択は変わります。
ここで整理しておきたいのが、「財産の継承」と「事業(経営)の継承」は別の概念であるという点です。例えば「創業者利益を確保し、お子さまへ財産を残すこと」が主要な目的に含まれるのであれば、親族以外の医師への第三者継承(クリニックM&A)も合理的な選択肢として検討できます。経営権を第三者に譲渡したとしても、退職金などでこれまで築いた利益を回収する方法は存在します。
「財産の継承」を目的にする場合、第三者継承は十分に成立し得る選択肢です。また近年、職業選択が多様化し、「子どもに医師になることを前提にしない」、「医師になったとしても実家を継ぐことを強制しない」という考え方を持つ先生も増えています。価値観の変化とともに、親子間継承一本に絞らず、第三者継承に関するご相談をいただくケースも当社では着実に増えてきています。親子か第三者か、ではなく目的から逆算して、未来の選択肢を複数持っておくこと。これが今の時代の「開業医としての医療の守り方」になってきているのではないか、と感じます。
第三者医院継承のメリットとデメリットについては、こちらにまとめました。
全体を把握しやすいよう整理しましたので、ぜひご参考ください。
第三者医院継承に関する無料相談実施中
クリニックの後継者問題は、親子間継承・第三者継承のどちらを選ぶにしても、早い段階で方向性を整理しておくほど、精神的・時間的な負荷を小さくできます。メディカルプラスでは「地域医療を絶やさない」という視点を大切に、第三者医院継承についての無料相談を実施しています。「まだ決めきれない」「まず何から考えればいいのか整理したい」その段階からで問題ありません。
大事なのは、一般論の正解ではなく、先生ご自身が納得して未来の形を選べることです。経験のあるアドバイザーが、現在のお考えやスタンスを丁寧に伺いながら、選択肢の整理をお手伝いしていますので、第三者医院継承(クリニックM&A)に関するご相談は、こちらから【お問い合わせ】お気軽にお問い合わせください。
案件情報の閲覧が可能になるほか、資料ダウンロードも自由にしていただけます。また最新の譲渡案件・継承開業に関する情報をいち早くお届けいたします。情報収集の効率化にお役立てください。
この記事の著者

神子 誠(かみこ まこと)
株式会社メディカルプラス コンサルティング営業本部 医院継承事業部 部長
学生時代にお客様からの感謝の言葉に触れた経験からサービス業に惹かれ、自動車メーカーで9年間のサービス業務に従事。その後メディカルプラスの理念「地域医療の継続と発展に貢献する」に共感し、2018年に入社。以来、50件以上のクリニック継承支援に携わり、お客様一人ひとりのニーズに応じたきめ細やかなサポートを提供。名前の通り誠実な対応と豊富な経験が、多くのクライアントから高い評価を受けている。
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