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有床診療所の第三者継承について

  • 医療継承コラム

地域の中核医療を担い、1996年には約2万施設を超えた「有床診療所」。1)
あれから25年。有床診療所は2020年に6千施設となり、減少の一途を辿っています。
地域医療を支えてきた有床診療所の閉鎖・無床化は、医療介護資源の少ない地方において、医療体制を維持できなくなる危険性をはらんでいます。
しかし、さまざま理由から閉鎖・無床化を余儀なくされていた有床診療所は、事業継承・第三者継承という形で、維持される施設が増えています。なぜ、有床診療所の事業継承・第三者継承は増えているのでしょうか?
今回は有床診療所とはなにか?から、有床診療所の現状と役割、問題までさまざまな視点から、有床診療所の第三者継承について解説していきます。2)3)19)

有床診療所とは?

病院で働く多くの医師にとって、有床診療所はあまり馴染みがないかもしれません。まずは、有床診療所の定義・歴史、有床診療所の機能と特徴について解説します。

有床診療所の定義

有床診療所とは、医療法医療法第一章総則(一条の五一項および二項)で定められる、「病床数19床以下の一般病床を有する診療所」のことです。
ほとんどの有床診療所の施設名は「○○クリニック」や「○○診療所」「○○産婦人科」となっています。一見すると病院との見分けがつきにくく、「有床診療所」という名称は患者や医療従事者に浸透していないのが実状です。4)

有床診療所の歴史

有所診療所は、昭和23年 1948年に施行された医療法により設置された制度です。終戦直後の、入院病床の絶対的不足に対処するためにGHQが新設した、日本独自の医療単位です。

有床診療所の機能

有床診療所は、さまざまの機能を併せ持っています。以下は、その一例です。
・地域の身近な診療所の外来機能
・専門的治療や慢性疾患治療を行う入院機能
・在宅療養患者の状態を把握しているために速やかに入院ができる機能
・大病院の術後回復期の患者を受け入れ、在宅復帰までの入院医療を行う機能
・分娩など専門的な治療が必要な入院患者を受け入れる機能
・在宅支援機能・介護保険サービスと連携し看取りまで対応できる機能
有床診療所は風邪や糖尿病・高血圧などの疾患から、入院や手術が必要な疾患、大病院から自宅へ帰るまでの療養、高齢者のショートステイなど、さまざまな役割を担っているのです。5)

有床診療所の特徴

有床診療所の多くが、外来から入院まですべてを1名の医師で行います。患者にとっては、外来・入院で医師が変わることなく治療を受けられるというメリットがあります。
さらに有床診療所では病床数が病院よりも少ないため、目が届きやすく、患者一人ひとりの状態に合わせた治療やケアができるといわれています。

病院と有床診療所の違い

有床診療所と病院はどのような違いがあるのでしょう。ここでは2つを比較し、有床診療所の特徴について解説します。

病床数

病院と有床診療所のベッド数は、以下の通りです。6)

病 院 20名以上の患者入院施設を有するもの
有床診療所 19名以下の患者入院施設を有するもの

職員数

病院と有床診療所における、人員配置標準は医療法で以下のように決められています。7)

医 師 看護師および准看護師
病院(一般病院) 16:1 3:1
有床診療所 1人 4:1

 

 

 

有床診療所では病院とは異なり、複数名の医師を配置する必要がないため、多くの施設が1人の医師で運営されています。看護師の配置基準は病院よりも看護師1人当たりが担当する患者数は多くなっています。有床診療所では、重症度や専門性に合わせた独自の看護配置を行っていることが一般的です。

診療報酬

病院と有床診療所では、医療行為に対する診療報酬は変わりがありませんが、入院基本料が大きく異なっています。以下は、病院と有料診療所の入院基本料の比較になります。

病院と有床診の入院基本料の主な比較(1日につき)〈一般病床の場合〉

 14日以内 30日以内 30日超
有床診療所入院基本料1
(看護職員7人以上)
(患者15名につき看護職員1名を配置している病院の対比)
 8,610円 (61%)  6,690円 (58%) 5,670円 (59%)
有床診療所入院基本料6
(看護職員4人未満)
(病院の特別入院基本料対比)
5,110円 (58%)  4,770円 (65%)  4,500円 (77%)
患者15名につき看護職員1名を配置している病院の基本料 14,100円 11,520円  9,600円
病院の特別入院基本料
(患者15名につき看護職員1名未満を配置している病院)
 8,840円 7,390円  5,840円

入院基本料だけみても、入院期間14日以内では、有床診療所のほうが病院よりも診療報酬が4割程度安くなります。
さらに、保険診療を行う一般的な有床診療所で患者1人1日あたり収益を推計すると、以下の結果が得られました。

入院費用 平均 20,805 円
入院収入 平均 18,557 円
差額 ▲2,248 円

このように、有床診療所の入院では、患者1人1日あたり2,248円の赤字となってしまうのです。8)
さらに、日本医師会総合政策研究機構が2019年に実施した調査では、法人経営の有床診療所の35.1%が赤字に陥っていると回答しています。 赤字施設の割合を診療科別にみると、内科29.1%、外科48.1%、整形外科 44.4%、産婦人科45.8%、眼科 26.3%となっており、有床診療所の経営が難しいことが伺えます。

患者にとっては有床診療所に入院したほうが医療費の自己負担が少なくなるというメリットがあります。しかし、経営者にとっては同じ医療を行っても、入院基本料が非常に低く評価されているために、収益化しにくいというデメリットがあります。
現状では赤字体制から抜け出すことが難しいため、有床診療所の閉院や有床診療所から無床診療所への転換が進んでいるのです。
この現状に対し国は専門医療の充実や、介護事業へ参画、介護専門院への転換、診療報酬の割り増しなどさまざまな対策で、地域医療を支える有床診療所の減少に歯止めをかけようとしています。病床再編など制度改革が進められる中で、有床診療所の病床機能は今後ますます必要になると推測されています。有床診療所が維持され、住民のために機能を充分に発揮できるような、医療政策上のさらなる支援が切望されているのです。8)

有床診療所の施設数の変遷

2021年7月1日時点で全国の有床診療所は6,247施設あります。10年前の2011年7月1日時点の有床診療所は10,249施設で、39%減少しました。有床診療所は20年前と比較して、半分以下に減少しているのです。9)10)16)17)
有床診療所を標榜診療科別にみると、内科が約4割を占めています。次いで外科、産婦人科、リハビリテーション科、整形外科、 小児科・小児外科となっています。

有床診療所の病床数の変遷

2021年7月末時点の全国の医療機関の病床数の総計は1,588,726床です。施設別の病床数の詳細および、2011年7月末と2021年7月末の施設別病床数の増減(%)は以下のとおりです。9)10)16)17)

施設別病床数(床) 2021年7月末時点 増減 2011年7月末時点
総 数 1,588,726 -7.7% 1,721,926
病 院 1,504,005 -5.3% 1,589,227
 

内 訳

精神病床 323,705 -6.3% 精神病床  345,709
感染症床 1,886 +5.1% 感染症床 1,793
結核病床 4,029 -48.6% 結核病床 7,845
療養病床 287,870 -13.1% 療養病床 331,365
一般病床 886,515 -1.7% 一般病床 902,515
一般診療所 84,663 -36.1% 132,589
歯科診療所 58 -47.2% 110

この10年で施設病床数は7.7%、一般診療所では36.1%も減少したことがわかります。この背景には医師不足による統廃合、経営の効率化だけでなく、国の地域医療構想による病床削減が影響を与えていると考えられます。

地域医療構想により病院及び診療所の病床は、都道府県の医療計画に基づき二次医療圏ごとの基準病床数が設定されています。既存病床数がこの基準病床数を上回り、病床過剰医療圏では、原則として病床の増・新設できません。18)
さらに、国や厚生労働省は国内の総病床数の削減・介護病床への移行をすすめているため、病床数は減少傾向にあるのです。有床診療所は収益化が難しいため、療養病床や一般病床と比較しても大幅な減少率となり、より収益が見込める無床化への移行が進んでいるのです。11)12)13)

地域における有床診療所の役割


さまざまな機能を持ち、日本の医療を支えてきた有床診療所は、地域でどのような役割
を果たしてきたのでしょう。
診療科別にみると、その役割は3つにわけることができます。
・専門医療を担う診療科:産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科
・地域医療を担う診療科:内科、外科
・双方の機能を持つ診療科:整形外科

さらに、平成 29 年度病床機能報告によると、有床診療所が地域で果たす役割は以下のように分類されています。14)この調査からは「専門医療を担って病院の役割を補完する機能」を担っている有床診療所が、実に半数以上を占めていることがわかります。
なかでも「分娩を扱う産婦人科」は、特に重要な役割を担っています。分娩を取り扱う有床診療所は平成 29 年には 1,144 施設、分娩数は 424,728件であり、日本の総分娩数の約45%を占めていました。
さらに、有床診療所における分娩率がもっとも高い佐賀県においては、有床診療所の分娩は県内の分娩数の73.5%に上りました。14)
現在、産婦人科の分娩病床は減少傾向にあり、「お産難民」も大きな社会問題となっています。地域の産婦人科の有床診療所は妊産婦の利便性を高め、若い世代の定住・少子化対策にもつながっている可能性が考えられます。
このように有床診療所は、地域のさまざまな年代の医療を支えるという大きな役割を担っているのです。

有床診療所の事業継承・第三者継承

有床診療所のうち、事業継承の予定があると回答した施設は全体の4割弱でした。
6割の有床診療所が継承問題を抱えており、存続に影響を与えている可能性が示唆されます。
事業継承を予定している診療科について調査すると、整形外科が41.6%で最も高く、最も低い産婦人科が27.6%と、約15%の開きがあることがわかりました。
さらに、親子など近親者の継承を望む施設は70.6%、第三者継承を望む施設は9.2%、いずれでも構わないが13.4%でした。
診療科別の継承先の希望としては、親子間の継承を望む整形外科84.1%でしたが、産婦人科では66.1%と大きな開きがありました。
譲渡を含む第3者継承を希望する診療科は、産婦人科が16.9%と他科の2倍以上と高い割合となっています。
有床診療所を継承予定もしくは継承希望の施設のうち、病床の継承を希望している施設は71.3%で、縮小や無床化を視野にいれている有床診療所も少なくないことも、明らかになっています。8)14)15)19)

有床診療所の事業継承は、経営母体が法人か個人かによって異なる点があります。ここでは法人・個人それぞれの場合の事業継承について解説していきます。

法人の場合

法人が有床診療所の開設者の場合、管理者は理事長などの医師となっています。そのため開設者は法人のままで継承され、管理者の変更や社員・役員の入れ替え手続きののちに、事業継承が行われるのが一般的なパターンです。
法人経営の有床診療所であれば、診療所の廃止手続きを踏ことなく事業継承が可能です。日々の診療をストップしたり、病床数を変更したりなど、事業継承による経営への影響を最小限に抑えることができます。
法人経営の有床診療所の場合、医療機関の資産・債務は法人に帰属しています。そのため、事業継承による債務の清算は必須ではありません。もし、医療法人の形態が 「持分の定めがある社団医療法人」で、出資持分を持つ社員が事業承継する時には、持分の承継問題が生じます。持分評価額の算定を基にした、持分の譲渡・贈与・相続をシミュレー ションし、具体的な事業承継プランを練っていく必要があるため、専門コンサルタントやアドバイザーにぜひご相談ください。

出資持分についての詳細は、以下のコラムをご参照ください。

「出資持分譲渡」ってなに?譲渡価格の計算はどうやるの?

個人の場合

有床診療所の開設者・管理者が院長個人となっている場合には、法人とは異なる手続きが必要です。
有床診療所の事業継承では、開設者・管理者ともに変更する必要があります。
既存の個人有床診療所の廃止手続きを取り、後継者が新たに有床診療所を開設し、管理者となったうえで診療を継続していきます。
もし有床診療所の所在地が病床過剰地域にあれば、事業継承に伴う病床継承が困難となる可能性もゼロではありません。18)そのため事業継承をする前に病床の継承が可能であるか、自治体に確認しておく必要があります。スムーズな事業継承のために有床診療所をいったん医療法人化し、事業継承することも1つの方法です。
個人の有床診療所の債務は院長個人に帰属しています。親族ではない第3者に継承する場合には、継承時点の医療機関にかかる債権・債務の清算が必須です。 14)

有床診療所の事業継承に伴う納税に関しては、「納税猶予措置」の適応を受けることも可能です。 平成 31 年度税制改正で、「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶 予制度(いわゆる個人版事業承継税制)」が 10 年間の時限措置(平成 31 年 4 月 1 日~令和 10 年 12 月 31 日の間)として新設されています。有床診療所を経営する個人開業医師も、適応対象です。
さらに相続税だけではなく、 贈与税にも特例が設けられています。この特例では特定事業用資産に対する納税額の全額(100%)が納税猶予されるなど、有床診療所の事業継承にメリットが大きい内容となっています。
ただし、この特例を利用して納税猶予の適用を受けた有床診療所が、医療法人化した場合には、個人事業を廃止したとして扱われることになります。その結果、納税猶予を受けた贈与税や相続税額に利子税を加えて納税をしなければならないため、制度の利用には注意が必要です。14)

これ以外にも医療継承にはさまざな手続きが必要です。
より詳しく医療継承に伴う各種行政手続きについて知りたい方は、こちらのコラムをご参照ください。

医院継承に伴う各種行政手続きについて

まとめ

有床診療所のうち、継承予定があると回答した施設は全体の4割弱しかありません。継承相手が決まっていない有床診療所も多く、継承問題は有床診療所の減少に大きく影響していると考えられます。
有床診療所の第3者継承はさまざまなメリットがあります。
新規開業の医師にとっては、初期費用のコストダウン、既存患者の引継ぎ、既存スタッフの引継ぎ、医療機器の引継ぎなどがあります。
第3者継承により診療機能が維持されることは、地域医療継続のためにも必要ですし、スタッフの雇用を生み出すというメリットもあります。
患者にとっても通い慣れた場所で治療を受けられますし、地域医療を支える有床診療所がなくなることは、地域住民の生活インフラの危機に直面しかねません。

開業医の高齢化も進み、多くのクリニックで世代交代を迎えています。医業が次の世代に適切に承継され、地域に根ざした診療が維持されていくことは、地域医療構想の持続発展の観点からもとても重要なミッションです。19)
日本医師会も、地域の医療を守るために第三者継承への支援体制を拡充しています。20)
第3者継承を希望される場合には、計画的に仲介業者に相談し手続きを進めていくことが、事業継承の秘訣です。

当社では無料相談を実施しております。医院継承(承継)、クリニック売却買収、医療法人M&Aをお考えの方はこちら【✉お問合せ】より、お気軽にお問い合わせください。

医療継承についてより、詳しく知りたい方は、こちらもご参照ください。

医院継承について

【参考資料】

1)日本医師会総合政策研究機構
https://www.jmari.med.or.jp/
2)日医総研ワーキングペーパー  2021年 有床診療所の現状調査 No.461 2021年9月28日
日本医師会総合政策研究機構
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP461.pdf
3)日医総研リサーチ・レポート No.113 診療所の診療科特性について(その 1)
-診療所数、医師数、診療行為-
https://www.jmari.med.or.jp/download/RR113.pdf
4)有床診療所って、なに?
http://www.youshowsin.com/about-youshow.html
5)月刊保団連臨時増刊号 No. 1278 ご存知ですか 有床診療所
─地域医療を守る大切な医療機関です─
https://hodanren.doc-net.or.jp/kenkou/180916_yusho.pdf
6)医療法 ◆昭和23年07月30日法律第205号
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0&pageNo=1
7)厚生労働省 後期高齢者医療制度の準備状況  P4
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0323-9b.pdf
8)日医総研ワーキングペーパー 2019 年(第6回)有床診療所の現状調査 No.436
2019年10月29日 日本医師会総合政策研究機構  P38.P64
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP436.pdf
9)厚生労働省 医療施設動態調査(平成23年7月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m11/dl/is1107_01.pdf
10)厚生労働省 医療施設動態調査(平成23年7月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m11/is1107.html
11)厚生労働省 特例病床制度(医療法第30条の4第9項)の概要
http://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000827442.pdf
12)厚生労働省 基準病床数制度について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000zc42-att/2r9852000000zc7d.pdf
13)厚生労働省 平成29年11月10日 第55回社会保障審議会医療部会、
有床診療所の現状と課題
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000184304.pdf
14)令和元年度 有床診療所委員会答申:令和2年2月日本医師会有床診療所委員会
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20200226_1.pdf P8.P30 .P31.
15)日医オンライン
https://www.med.or.jp/nichiionline/article/009150.html
16)厚生労働省 医療施設動態調査(令和3年7月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m21/dl/is2107_01.pdf
17)厚生労働省 医療施設動態調査(令和3年7月末概数)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m21/is2107.html
18)厚生労働省 地域医療構想について
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000711472.pdf
19)日医総研ワーキングペーパー 医業承継の現状と課題 No.422 2019年1月8日
https://www.jmari.med.or.jp/download/WP422.pdf
20)医業の第三者承継における日本医師会の基本的な考えについて
https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20200115_2.pdf


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