ホーム » コラム » 医療継承コラム » 連載コラム第9弾《医療の落とし穴》 #3 ~医療におけるヒトとヒト~

連載コラム第9弾《医療の落とし穴》 #3 ~医療におけるヒトとヒト~

  • 医療継承コラム

当社仲介により埼玉県草加市の「柳島クリニック」を継承開業されました、吉川英志先生より寄稿いただきました連載コラム『クリニックを継承開業した経験から見えた医院継承とは?』より、第9弾「医療の落とし穴 #3~医療におけるヒトとヒト~」をお届いたします。ぜひ最後までご覧ください。

現代社会のヒトとヒト

連載コラム第9弾#1~技術革新と医療~の冒頭で述べましたように、ヒトとヒトの溝がデジタル化社会では一層深まった可能性を示唆しましたが、一見何の変哲もない都会暮らしでも最近日常的に目にする光景であり、遠慮や思いやり、気働きやオモテナシなどの片鱗すらありません。ベビーカーや老人は当然のように Priority seatをいち早く占有し、その後は老人同士の無意味な座席の譲り合いから、やがて席取りバトルの開始です。見ているのもおぞましい光景で、いっそ運転手、車掌なりが「フルーツバスケット」とでも宣言すべきではないかと毎回思います。ヒトとヒトとの(心の)距離というのは、ソーシャルディスタンスを保つまでもなく間違いなく離れて行っております。

医療者と患者の溝

 医療に対する患者意識の変化の始まり

こんな人間模様は医療の場でも当然のようにありまして、医療訴訟ことに刑事事件として医療者の立件を伴う医療側と患者側の対立をきっかけに、両者の意識を完全に変える契機となりました。2000年の杏林大病院割りばし死事件(業務上過失致死罪、在宅起訴、無罪)、2006年の福島県立大野病院産科医逮捕事件(業務上過失致死罪、医師法違反、逮捕起訴、無罪)、2016年の柳原病院事件(麻酔と鎮静による術後せん妄による幻覚か準強制わいせつ罪かが争われる事件、逮捕拘留起訴、最高裁第二小法廷で弁論予定)と、他の医療裁判同様(連載コラム第9弾#1~技術革新と医療~詳述)、医師が刑事裁判で裁かれ最初の医療崩壊が叫ばれた時代から、医療への不信、やがて医師が逮捕、拘留される時代へと事態は悪化しました。医療者が「患者様」と呼び始め、患者が消費者となる辺りから両者の関係は決定的に狂い初め、現在のデジタル化、ネット社会へ至る系譜において培われ、将に埋め合わせができない程に医療者と一部患者との間に溝が生じました。

 最近の医療に対する患者意識

健康保険料を長年にわたり支払っていた方々は、一定の尊厳と敬意、マナーをもって医療者に相対しておられますが、一方で若い世代を中心に今、医療の受け方(特に他人の命が関わる場所での最低限の約束事)に従わず、これも普段健康体で慣れない受診ゆえに分からない事も多いのでしょうが、敬意や礼節をわきまえず、消費者のつもりで自己中心的で、気に入らなければ匿名での誹謗・中傷をネットの口コミに発信する、しかもその内容が無知を世界に広げる内容であり、日本語であることがせめてもの救いであるような方々がいます。

これが目に見える形となって露呈したのが、新型コロナ感染症流行の初期ならびに蔓延時期であったと理解しています。コンビニ受診、不要不急の受診など、本来薬局で買える薬(OTC(Over The Counter)医薬品)を飲めば事足りる体調変化でも、受診した方が安上がりとの理由で、風邪薬や花粉症の薬、消化剤、ビタミン剤や湿布欲しさに受診する、医療費が無料ということで鼻水、肌の乾燥のみでやはり小児科を受診する親御さんなどが、コロナ禍の受診控えから暴露されました。

将に医院はコンビニで、安く希望する薬をもらえるお店で、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の「零売」薬局の制度もほとんどの方々はご存知ないでしょう。これでは、受診マナーも、礼節も、医療への畏怖・畏敬の念はありえませんし、コロナ禍での医療者やその家族に対する拒否や中傷が当然に起こる訳で、ブルーインパルスの飛行がただ虚しく感じられるのです。こうなると医療者のモチベーションは、志、使命感、地域や社会への貢献、達成感から物質的なものに変貌してしまいますし、患者さんを蔑ろにするような医療も実際にあるかも知れません。こういった相互関係こそが現在の医療者と患者の「溝」なのです。

 匿名の口コミ投稿

あるアンケート調査によれば、開業医の集患に役立ったと実感される方法として、「日々のしっかりした診療活動」が断突に挙げられ、診療の充実と患者さんの満足度でリピーターや口コミによる集患に繋がるという解釈がなされています。ただし、この口コミが昨今のネット社会では曲者でして、ネット上での口コミはもはや誹謗・中傷の投稿の場と化しており、ここにも医療者と患者の「溝」を感じます。悪質な投稿に対し、削除を依頼しても決して削除させることはありませんし、これらに付け込んで削除依頼を請け負うとのある種の特殊詐欺が暗躍しています。あまりに口コミを気にする余り、丁寧におわびや説明を返答している医院さんも散見しますが、その必要がありましょうか。

実際削除する意味があるのかは別としまして、例えばgoogleの削除ポリシーに違反する口コミとは、①スパム・虚偽、②医院と関連がない口コミ、③規制品を促す、④テロ行為の助長、⑤露骨な性的表現、⑥名誉毀損など違法性のあるもの、⑦不適切(冒涜的・わいせつな言葉)、⑧暴力的表現(中傷・威嚇・人種差別など)、⑨なりすまし、⑩利害関係に及ぶもの(競合を低評価するなど)でして、⑥の名誉棄損と⑧の中傷、⑩の競合評価くらいが該当するかでしょう。では名誉毀損の要件となりますと、「公然」「事実を摘示」「名誉を毀損」の3要件が必要ですが、ネット、SNSで不特定多数(公然)に向けた名誉を毀損する内容も、「事実」ではなく単なる「感想」と見なされ、更には第二の被害者を生まない公益目的との解釈も加わり、結果名誉毀損には当たりません。加えて名誉毀損の慰謝料は高額でなく、「口コミのせいで医院の売上が下がり」損害賠償請求する等は、立証困難で司法も認めません。その一方、投稿内容が犯罪につながる、または脅迫罪など犯罪そのものである、あるいは「バカ」「アホ」などの侮辱的投稿はNGです。匿名ゆえネット上で何を言っても良い訳ではなく、最低のマナーやリテラシーは必要でしょう。

悪ノリや憂さ晴らしには医療側にも相応の態度が必要な時期にきています。医療者の多くはこれらの口コミ投稿を便所の落書きと理解しており、その土地の民度や治安、所得層、年齢層を推し量るべく材料になると同時に、前コラムの通り、投稿は同時に個人情報が投稿内容とともに巨大データブローカーに捧げられるということを理解していれば、気にはなりません。低評価による受診意思への影響は実験的にも有意差なく(コラム10参照)、「投稿に至るヒト」という性格的バイアスが掛かっており(実際そういうヒトと付き合いがあります)、類は友を呼び寧ろ気の合わない者たちが近寄らない暗黙の手段になっているかも知れません。

 誤解という罠

医療の質には直結しないと考えてはいますものの、口コミ投稿に多い「医療者の人当り」に関し、集団予防接種や健診など多数の経験を通じ、「高圧的態度」、「丁寧な説明」など相互にヒトが受ける感じ、印象について色々実験しておりまして、少々述べて参ります。言葉や話し方の調子は国、地方、個人で全く異なり、受ける印象も異なります。中国語の会話が喧嘩に感じ、南信の人間には甲斐言葉が怒っているような、都内でも山の手に比べ江戸言葉はきつい感じを受けます。声の大きさ、強さを高圧的と感じることもあります。ヒトとヒトとの距離感も皆一定ではなく、常連、慣れた相手と初対面の方では使う言葉の感じを変えますし、時に冗句も交えますが、年齢や社会的地位も実際には考慮されます(ですます調、ございます調)。極端に無口な方も居て、無視されているような印象を受けます。マスク下で言葉がはっきりしないのも受けは良くないようです。まずは自ら挨拶するのは印象が良いですし、最初は相手の声のトーンに合わせるのが良さそうです。質問を促す感じも有効ですが、相手が積極的に質問してくる場合は要注意で、無意識のうちの曖昧・無視は最低の評価ですし、「答え」を求められている場合は嘘でもいいから自信たっぷりに、幅広く選択肢を求められている場合は優しく柔軟に対応し色々説明するのが良さそうです。

例えば、インフルエンザワクチンは受けた方が良いですか?という場合などで、相手の意図を瞬時に汲み取る難しさはありますが、医学的根拠や内容は実はあまり問題でないのが実際です。多忙な時にも相手に悟られないよう、蔑(ないがしろ)にしていないように見せかける技術は特に重要に思われます。以上は、誤解によるつまらない口コミ投稿を未然に防ぐべく方策を意識してのものですが、病医院や医療のシステム自体への無知からくる誤解は正直お手上げですので、可能な限り簡単明瞭かつ平易な言葉で説明、誘導するなどが有効な手段であると思います。

また医療現場では笑顔は必要ないことを感じます。以前信大第一外科で幕内教授から川崎教授に代わられた際、川崎教授は「移植医は笑ってはいけない」ニュアンスのお話をされた記憶があります。当時の移植で、助かる命の裏で亡くなる患者さんがいた訳でそういう意味と解釈しましたが、医療現場には厳しさがあり、これは昔も今も変わっていません。医師の凛とした態度は様々な評価に関わらず貫かねばならない時があるのも事実です。

ドクターハラスメント

一方で、無意識のうちに発した無神経な言動で、患者やその家族が不必要に不安や不快を感じてしまう場合(ドクハラ)もあり、類型が明示されており注意が必要です。

 医師失格型

患者の心を傷つけ、無力化や孤立を意図する、「そんな性格だから病気になる」「私が信用できないなら他へ」「私の言うことがわからない」「改善する気ないの」というたぐいの言動が該当します。

 脅迫型

不安を煽り脅すことで治療の選択肢を与えない、「すぐ手術しないと治らない」「目が見えなくなっても知らない」「この治療をしなければ死ぬ」といった霊感商法的な言動が該当します。

 ゼニゲバ型

治療、回復より利益を優先するあまり、不要な高額検査、保険外治療が必要不可欠であるかのように薦め、「金にならないから早く退院させよう」などといった姿勢が該当します。

 ミスマッチ型

因果関係が不明な言動で、「昔だったら死んでいた」「もう子供は作らないから子宮はいらない」といった言動が該当します。

 告知型

患者や家族を絶望させるような、「どうせ助からないから」「もう一生治らない」などの言動が該当します。

 セクハラ型

産科婦人科においてセクハラで患者の心を傷つける、「遊び過ぎだからこんな病気になる」「妊娠する覚えなどないでしょう(外見)」といった言動が該当します。

 小児科型

子供に出来ないことを糾弾するような、「子供でもそれくらい出来るでしょう」「食べなきゃ死ぬよ」、あるいは子供の病気を親の責任にするような、「母親がそんなだから子供が病気になる」「育て方が悪い」など、子供本人や親御さんへの言動それぞれが該当します。

 医療者間の溝 ~ハラスメント~

 ハラスメントとは

日本人のラーメンの食べ方、あのススル音が外国人に不快であるとしてヌードルハラスメントなどと取り上げられますが、平成になりセクハラが新語・流行語大賞の新語部門の金賞を受賞し、「ハラスメント」の概念が急拡大しました。これはズバリ、嫌がらせなど相手に精神的不利益を与え尊厳や人格を侵害する言動です。言葉の意図・目的に関わらず、受けた側の捉え方でハラスメントに該当し、加害者が自身のハラスメントに気づいてない事が多いのも問題です。2019年5月に労働施策総合推進法の改正で通称パワハラ防止法が成立し、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行となります。セクハラ、マタハラは既に、男女雇用機会均等法による対策が義務付けられております。

パワハラ防止法に違反した際の罰則は無く、ただし行政の勧告や指導の対象となり、施設名が公表されるなどイメージの低下は不可避で、職員の定着度や採用に影響が出そうです。この法制化により、パワハラの実態を認識しつつも放置した場合は、不法行為責任を問われ法廷闘争の危険も高くなります。そこで、パワハラ防止法で義務化された対策、予防、対応法の3点が必須となります。ハラスメントは最悪、職員の過労死や自殺などを招く結果となり、損害賠償や施設のイメージ低下など多大なリスクを被り、職員の離職、定着率の低下に繋がるため十分な注意が必要です。

 ハラスメント対策

苦情や相談に対応するための相談窓口を設置し、体制を整備しましょう。窓口担当者の言動が更なるハラスメントに繋がらないよう注意し、相談者の精神的安心・プライバシー保護や、相談方法の匿名化にも十分配慮しましょう。

 ハラスメントの予防

施設としてのルールを明確にし、周知・啓発し、定期的な教育・研修を実施しましょう。

 ハラスメントへの対応

発覚時の対応として相談者、加害者、第三者それぞれへのヒアリングを行い、その事実が認められた場合は、被害者の不利益の回復に努め、配置転換、謝罪等の措置とともに、その背景にある要因を解消すべく再発防止策も検討しましょう。

 ハラスメントのいろいろ

ハラスメントは被害者の属性や加害理由により名称が定義され多岐にわたります。①パワハラは上司や先輩に該当する者が、就業環境の劣悪化や、業務範囲を超えた負荷や精神的苦痛を与えるもので、業務時間内に遂行できない量の仕事を課す、プライベートへの干渉などで、最近では休日・時間外のメールの問題が注目されています。②セクハラは異性・同姓に関わらず相手の意を害する性的な言動やボディータッチで、頻回の食事への誘いなども該当します。③マタハラは女性の妊娠・出産・育児休業への嫌がらせや不利益となる言動で、男女雇用機会均等法ではいち早く妊娠・出産を理由とした解雇などの不利益が禁止されました。④モラハラは道徳に反した言葉や態度で、無視や人格否定などによる精神的な暴力ですが、被害者となった職員に精神の不調など重大な問題を引き起こし、施設全体に損害をもたらしかねません。⑤アカハラは大学や研究施設など学術機関におけるパワハラで教育・研究上の権力を濫用し、修学・教育・研究の遂行上での不利益や精神・身体的損害を与えます。⑥ジェンハラは女性、男性という性差を理由とした差別的な言動で、「なぜ子供をつくらない」「男なのにこんなこともできない」などの言動が挙げられます。⑦マリハラは独身者に対する差別で、「その歳でまだ結婚しない」などの言動が該当します。⑧エイハラは年齢に対する嫌がらせや、人権侵害する差別的言動で、「ゆとり世代は」「昭和生まれは」などの発言が該当します。⑨ジタハラは、働き方改革での有給休暇の取得義務や時間外労働の上限規制の法案化に伴い、残業時間を削減するよう圧力をかけ、実際の業務量は変わらず、残業時間のみが減らされ、サービス残業や自宅持ち帰り業務などの温床となります。⑩テクハラはパソコンやスマホ、タブレットなどのデバイスの操作が苦手な人に対する差別的な言動で、操作説明の際に相手が理解しえない専門用語を意図的に使う行為などです。⑪アルハラは飲酒に関わる嫌がらせや迷惑行為で、飲酒の強要や、飲めない、飲まないことへの侮辱行為が当てはまり、急性アルコール中毒や傷害の誘発へと発展する場合があります。⑫セカ(セカンド)ハラはハラスメントの相談者が、そのことを逆に責められ嫌がらせを受けることで、より精神的に追い込まれ、企業がハラスメントを容認していると見なされかねない行為です。他にもソーハラ(SNSのフォロー申請や自分の投稿に対する反応の強要、投稿へのチェックコメント)、スメハラ(体臭や香水などで不快な思いをさせてしまう)、エアハラ(エアコンの温度調整を勝手にすることで他人に不利益を与えてしまう、意図的に場の空気を乱す言動)など次々に派生し、そのひとつひとつは決して無視できず、病医院の経営者も注意が必要です。

<<前の記事へ  |  次の記事へ>>

【関連コラム】

連載コラム第1弾 《医院譲渡のポイント》

連載コラム第2弾 《医院運営の三本柱》#1

連載コラム第2弾 《医院運営の三本柱》#2 保健部門①

連載コラム第2弾 《医院運営の三本柱》#3 保健部門②

連載コラム第2弾 《医院運営の三本柱》#4 労務・税務部門

連載コラム第3弾《継承開業のすゝめ》

連載コラム第4弾《開業後の実務 ~継承開業のメリット・デメリット》

連載コラム第5弾 開業医が廃業前にすべきこと ~医院継承の実際~

連載コラム第6弾 医院譲渡の際の収入と費用

連載コラム第7弾 医院継承(譲受)にまつわる必要資金

連載コラム第8弾 失敗しない医院継承

連載コラム第9弾《医療の落とし穴》 #1~技術革新と医療~

連載コラム第9弾《医療の落とし穴》 #2 ~情報化社会と医療~

【関連動画】

柳島クリニック 吉川英志先生 医院継承インタビュー

当社では無料相談を実施しております。医院継承(承継)、クリニック売却買収、医療法人M&Aをお考えの方はこちらより【お問い合わせ】お気軽にお問い合わせください。


人気記事


会員登録 ご登録いただくと、最新の案件情報をいち早くお届けいたします。