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連載コラム第9弾《医療の落とし穴》 #2 ~情報化社会と医療~

  • 医療継承コラム

当社仲介により埼玉県草加市の「柳島クリニック」を継承開業されました、吉川英志先生より寄稿いただきました連載コラム『クリニックを継承開業した経験から見えた医院継承とは?』より、第9弾「医療の落とし穴 #2~情報化社会と医療~」をお届いたします。ぜひ最後までご覧ください。

情報化社会・ネット社会とヒト

最近埼玉県では、エスカレーターの駆け上がりを無くす条例が成立し、実質エスカレーターの片側を空ける習慣を止めにしたそうです。非常に効率的で評価できますが、そもそもエスカレーターの片側を空ける意味は、「煽り」を免れるための自己防衛策であります。急いでいるヒトのために通路を空けるなどという日本人の奥ゆかしさなど、とうの昔に絶滅していますし、最近でこそ話題になっていますが、自動車社会での煽りは以前から普通にありました。こういった抑圧されたヒトの感情の爆発は、コロナ禍でより顕著になっており、鬱積された不満が爆発し、殺傷事件が多発しています。さらに、情報化社会、ネット社会である現在、レビュー(査読)なしの書き込みは、ヤフコメ、インスタ、ツイッターを含め非常に攻撃的であり、個人、皇室、国家への躊躇ない誹謗・中傷も普通であり、特に匿名性の高いものでは、個人を自殺など死に至らしめる悪質なものが野放しにされているのが現状です。更に、インターネットは、見ず知らずのヒトとヒトを結び付けてしまう、これは募集やマッチングなど便利な反面、出会い系サイト、究極には自殺願望の者たちを集めての殺人、名古屋闇サイト殺人事件などの多くの犯罪に加担していることも確かです。時代は遡って湾岸戦争の時に目にしたモニター上の爆撃・爆破画像は将に戦争の時代変化を現場(米軍上層)が感じた時でありましょうし、その中には、実際に多くの民間人の犠牲者が映し出されていなかったというのも悲劇でしょう。ヒトとヒトとの間に入り込んだこれらデジタル情報は、ヒト同志を結び付ける意味合いよりも、両者に亀裂と決定的な溝、距離を作るのにより効果的なように私自身は感じています。

以上を踏まえ、今回のコラムは前回からのテーマの続き

医療の落とし穴#2 と題し、情報化社会の医療の現状を、巨大ネット企業の裏側、医療ビッグデータと医療情報の管理、遺伝子情報などを焦点に考えて参りますので、ぜひ最後までお付き合いください。

個人情報の利用と保護

 巨大ネット企業の裏側

私のコラムをお読み頂いている先生方はメディカルプラスさんのHPに入って頂いているのですが、これを機会に今後ネット画面の右端に転職サイトや医院継承を取り扱う業者からのコマーシャルが自動的に現れ、メールアドレスにはm3他社からの転職、医院継承関連のメールが届くようになるかも知れません。

ところで個人情報の価値に最初に気づいたのはスーパーマーケットであると言われていますが、当初はポイトカードによる情報収集によりクーポン券の発行へというマニュアル的な手法が、ネットショッピングの黎明期を経て、今のような効果的な広告手段となっています。ニュースレターの購読、各種サイトへの登録、不動産の相談、金融・カード・保険比較、場合によってはネットの閲覧履歴などの情報はデータブローカーに買い取られていて、我々の行動は常に監視、分析され、データは分配され、売られています。そこで自身の情報は氏名、生年月日とともに、クレジットカードの利用状況、資産、体格・体型、アルコール依存度、時に服用薬や身体障害、性的嗜好などあらゆるデータが秘密のサーバに収められています。そしてお気に入りのサイトにログインすれば、データブローカーへ居場所が伝えられ、パソコンにクッキーが付けられることで、どこのサイトへ行っても同様の広告が送られて来ます。ネット系巨大企業であるグーグル、フェイスブック、ツイッターやインスタグラムなどはマイクロターゲティングをもとにビジネス展開しており、その意味ではデータブローカーと何ら変わりは無く、広告の付いた投稿を読まれることで広告利益をあげており、おまけにその人々の知らないうちに、個人の情報を吸い上げているということです。

問題はこれらの情報の売買が無法地帯であることで、ある研究ではネット閲覧履歴の匿名のものが買い取られ、その調査によると、ユーザーがダウンロードしたグーグル・クロームのプラグインによるものであったらしいです(覗き見のことは利用規約に明確に記載されている)。ここで匿名性が担保させていればと考えるのは浅はかなようで、研究チームによれば、データ中にすぐに使える識別子が無くても、引用リツイートやユーチューブでプレイリストを公開するなど、本名に紐づいた足跡を残す場合、簡単に個人の情報としてネット閲覧履歴が再現されたとのことです。その中では、アダルトサイトの閲覧、薬物療法の検索、機密書類のコピペを翻訳にかけていたなど、立場にもよりますが個人的に少々都合の悪い事実も発覚するようです。

さてここで別の問題としてデータとヒトの関係性、既に古いですがフェイスブックの「いいね」と性格特性の関係、ツイッターのフィードからの性格診断などの実験がなされており、特にコンサルティング会社が行った実験では、ヒトの性格に合わせた(内向的、外交的、開放性など)広告の使い分けは有用で、選挙活動にも利用されました(神経症的傾向のシングルマザーと銃の必要性)。更にフェイスブックの投稿には人の気持ちを変える、すなわちデータがヒトを操る力があるらしいことが実験で示されました。肯定的な言葉での投稿が表示されていないと、ユーザーは否定的な言葉での投稿をするようになった、逆も然り、すなわちこれgoogleの口コミに新患が影響されうるということになってしまいます。ただし最終的な結論の前に、フェイスブックの実験の数値的な比較では0.1%の差しかないのが事実です。これは性格の違いによるターゲット広告の実験でも同様で、有意差を見出すのは困難でしたが、大統領選挙ではこの差が大きいという場合もありそうです。

さて個人情報にも色々ありますが、自身のネットの閲覧情報と医療情報のいずれかを開示しなければならないとしたらどうされますか?

 オンライン資格認定と個人医療情報ビッグデータ

顔認証でも述べましたが、個人のナンバーと顔認証という最強の個人識別情報が医療情報へとつながることで、医療ビッグデータが出来上がります。これらに後述する遺伝子情報が加われば、ほぼ100%の個人識別が可能であり、医療データとしては2021年9月分からの薬剤情報の閲覧が可能になりました。さて医療ビッグデータ構築は、一貫した最善の治療への方向付けとともに、先のAIによる鑑別診断プログラムの学習に大いに役立ちます。個人の医療データは病院受診のもの、かかりつけ医の紙カルテなどとして散在しており、英国国民保健サービス(NHS)は健康記録を共有していませんし、他の先進諸国もこの点では五十歩百歩です。現時点では、データの形式は支離滅裂で、画像、報告書、処方箋など無秩序です。かつてグーグル傘下のAI企業ディープマインドは医療現場で有効なプログラムを作ろうとしたが挫折、腎不全に対象を絞ってプログラム作成へ向かうためロンドンの3病院の医療データに対するフリーアクセス権を得ました。期待とは裏腹に、このプロジェクトが報道されるや多くの人々が怒り始めました。それは文字通りの意味においてで、新型コロナ、癌、AIDS、精神疾患、妊娠中絶などのすべての医療情報が解ることによります。

前項の回答になりますが、健康なヒトは医療記録の公開を選択するでしょうが、他言無用の医療データは時に人の人生を物語ります。生命保険会社、融資の際の団体信用生命保険加入、クレジットカードの審査などにおいて、健康診断書代わりに医療ビッグデータが使われたとしたら、何らやましい事は無くても気持ちが悪いですし、実際に何らかの格付けの根拠にされたとしたらどうでしょう。医療者がこれまで守ってきた守秘義務がどこまで担保されているのかについては、今後注意深く見守る必要がありそうです。

 個人情報保護とカルテ開示

先の医療情報の特性から、医療情報の開示に関しましては時に頭を悩ませる問題として身近にあります。特に当サイトをご覧の医院継承に関わる先生方は尚更でありましょう。

警察からの電話照会はよくありますが、原則かけ直しし相手が警察官であるかの確認をお勧めしますし、更には公文書による照会を要求することをお勧めします。刑事訴訟法197条2項に基づく「捜査関係事項照会書」による公開にもよく直面しますが、自体は公文書ですが、任意捜査ですので医療機関には照会に応ずる法的義務はありません。ただカルテを見て容易に回答しうる範囲の照会には対応するのが一般的です。この照会は、個人情報保護法の「法令に基づく場合」に該当するため、患者の同意がなくても違反にはなりません。更にこれらは総じて、対象患者が死亡した場合の事件・事故が多いです(後述)。依頼内容が医院で採取した血液検体の任意提出や、責任能力の有無など犯罪捜査に関わる情報である場合も想定され、対応は専門家とご相談ください。ご参考までに前者では裁判所の捜索差押令状を根拠に差押えることも可能です。

医院継承では、弁護士とまでは言わずとも、遺族や保険会社などから直接カルテ開示が要求されることも想定されます。継承で当該患者を一度も診察していない場合でも、医療機関は「個人情報取扱業者」(個人情報保護法2条5項)に該当し、患者情報は,開示の対象となる「保有個人データ」(個人情報保護法2条7項)です。ただ個人情報保護法上の「個人情報」とは,あくまで「生存する個人に関する情報」(個人情報保護法2条1項)で、亡くなられ方のカルテは個人情報保護法上の「個人情報」に該当せず、開示義務はありませんが、裁判手続等で開示を求められる場合もあり注意が必要です。実務上は、法定相続人であることを確認するための戸籍謄本や、開示を求める目的を明示させ適切な方法で開示を求められた場合,故人のカルテ等を開示する医療機関は多いようです。

この項の終わりに蛇足ですが、医院継承におけるカルテの引継ぎは、継承相手が個人情報取り扱いの第三者とみなされず、個人情報保護法に抵触しませんが、この場合でも、あらかじめ本人の同意を得ないで診療等の医療行為を超えて個人情報を使用する場合は同法に抵触するため、ここでも微妙に注意が必要です。詳細は専門家にご相談ください。

遺伝情報の罠

現在の犯罪捜査の三種の神器はズバリ監視カメラ、スマホ、それにDNA鑑定です。遺伝子は犯人の確定、個人・親子識別に最も強力な生物学的根拠を与え、DNAの種類や部位を変えて複数の方法で確認すれば否定する余地は残されません。顔の骨格まで整形手術で変え、指を焼いて指紋を消し去ったとしても、今の所DNAは変えられません(ゲノム編集はここでは考えません)。先の医療データとの比較において、医療情報の漏洩に対する不安内容としては、憶測を立てられ不利益が生じることに不安を感じるヒトが多いらしく、実際、煙草やピザを多く買っている場合、前者では英国の一部の病院で膝や腰の手術が後回しにされる、あるいは後者では保険に入れない、治療を受けられない(肥満を示唆)ことが各国であり、そういった事が現実になることへの不安のようです。

さて、現在の遺伝子検査の様相は、アメリカでは既に一般的で、キットを用いて唾液を検体にするなど簡易的なもので、乳がんリスク、肥満体質、アルツハイマー病の素因などの検索です。しかし、疾患リスクと遺伝子の関係は複雑で結論的結果を得られるものでないことは自明で、簡単な遺伝的素因を報告書として送ることになります。こういった会社はそれほど高価でない遺伝子診断を謳いながら、実は可能な限り多くのヒトの遺伝子情報を集めることで、いずれ(顧客の同意を取ってでしょうが)この遺伝子情報をしかるべく研究施設、企業に個人が特定されないように売る、これが唯一の目的です。そうです、遺伝子検査キットが商品ではなく、商品は利用者その者です。

さらにこの「個人が特定されない形で研究施設に」という類の約束は鵜吞みに出来ません。自身の唾液検査で得たDNAコードから精子提供者である父親を見つけた例、簡単なパソコン上の操作で、遺伝子から無数のヒトが特定された論文(もう6年ほど前の話です)もあります(Identifying personal genomes by surname inference. Science 339(6117), 321-4, 2015)。加えて、遺伝子情報はいかなるデータベースにも載せるべきでない理由が欧米にはあります。自らの意志でなければ遺伝子検査を受けさせられることはありませんが、アメリカでは保険申し込みの際、乳がん、アルツハイマー病やパーキンソン病など、病気の発症リスクを推定する検査を受けたかが尋ねられ、場合によっては保険の加入ができないことがありますし、英国の保険会社はハンチントン舞踏病の遺伝子検査の結果を加味することが許されています。

今後日本でも一般化するのかわかりませんし、現に利用している方々も多いのかもしれません。遺伝子提供により無数のヒトのゲノム配列が医療、健康・保健的研究に多大な役割を演じることは間違いありませんが、プライバシーと引き換えに大きな社会貢献をすることは、私自身は今すぐには考えておりません。

ネット口コミとタレコミからヒトとヒトへ

原稿の枚数も増えましたので、次回のコラムでおおくりします。インターネット時代の口コミ(タレコミ)は、今世紀初頭の医療訴訟に始まる医療側と患者側の対立から、患者様時代を通じ、ネット社会のヒトとヒトの亀裂において培われ、決定的な医療者と患者側の溝へと至った系譜から論じ、加えて医療現場のヒトとヒトとの関係について、労使関係を含め考察していきたいと考えておりますのでご期待ください。

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